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SSの幼生


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宇宙開拓
 宇宙空間を一隻の宇宙船が飛んでいた。それ以外に見えるのはジャガイモのような小惑星だけである。
 操縦室の真ん中に座っていた船長に技術士が近寄り、話しかける。
「船長、このままですと燃料が足りず、地球に帰れません。どこかの中継基地で燃料を補給しなくてはなりませんよ。」
「そうか。やはり高密度の小惑星群を避けるために回り道をしたのがいけなかったな。」
 二人の会話を聞いたパイロットが心配そうに船長に言う。
「大丈夫なのですか? この辺も小惑星ばかりで中継基地なんて・・・。」
 パイロットの声で技術士も心配そうに船長の顔を見る。
 船長は無言で目の前の端末を操作し、宇宙の海図を調べる。そしてすぐに、うれしそうに頷く。
「おお、我々は運がいいぞ。近くにエレ星があるじゃないか。」
「エレ星?」
 パイロットが船長に聞き返す。
「うーん、お前達はまだ若いから知らないだろうが、人類が本格的に宇宙探査をし始めた頃に見つけた星だよ。あの星は当時の地球よりも若干文明が進んでいたために我々を暖かく迎えてくれて、星間和親条約を結んだんだよ。」
「へぇ・・・、星間和親条約を結んだ国はごまんとありますが、地球より文明が進んでいる星はあまりありませんよね。」
 技術士の合いの手を聞いた船長はうれしそうにうなづく。
「そうだよ。当時は生物はいても未開の星ばかりしか見つかってなかったから、このニュースは衝撃的だったよ。だが、文明のレベルがほぼ同じだから交流といっても親善大使が行き来するくらいで、最近はあまりニュースはないけれどね。ともかく、エレ星へ行くから光速飛行から通常飛行へと映してくれ。それから、進路を(3,13,2)ずらすように。」
「わかりました。」
 宇宙船は進路を変え、進みエレ星へ到着した。
「地球のみなさまようこそ、エレ星へ。」
 大気圏内に入るとすぐにエレ星から無線でメッセージが入る。
「こんちには。実は燃料が足りなくなり、こちらで補給したいのだがよろしいでしょうか?」
「そのようなことでしたらおやすいご用です。それでは、四百三十七番ゲートを解放しますのでそちらへ入って下さい。黄色と緑のランプがついています。」
「ありがとうございます。」
 快く迎えてくれたので、船長はホッとした。パイロットは開いたゲートを探し、着陸する。

「さあ、どうぞ。燃料を補給する間、我々の施設の応接室へいらっしゃってください。」
「何から何までありがとうございます。」
 船長はこの時、無線の相手が本物のエレ星人ではなく人口音声であることに気付いた。
 無線がとぎれたとき、燃料投入口にパイプがつながる音がした。
「ご厚意に甘えて、外に出てみるとするか。みんな、外へ出る準備をするんだ。」
 船長が船内無線で宇宙船の中にいる四十名弱の船員に指示を出す。
「武器はどうします?」
 副パイロットの声に、船長は少し考えた。自分たちよりも文明が進んでいる星であるし、和親条約を結んでいるために危険なことはない。それに、武器を持っていたらむしろ失礼に当たるかもしれない。
「まあ、取りあえず持っていろ。どうせ不要だろうが。」
 船長含め船員は船外へ出て、周りを見渡した。宇宙船よりも高い壁で囲まれており、高層ビルのように窓が転々とついている。しかし、どの窓にも人影らしいものはない。船員達がきょろきょろしていると、前の扉が音もなく開く。しかし、出迎えはなかった。
「どうぞ、こちらへ。」
 スピーカらの音声だけの対応に船員達は顔を見合わせたが、導かれるままに進んでいった。いくつか扉をくぐり、広い部屋についた。テーブルの上には食べ物が置いてあるが、やはり誰もいない。
「出迎えのものが参るまで、テーブルの上に置いてるものを召し上がりながら、おくつろぎ下さい。」
 室内にあるスピーカーからの音だけが響く。船員達は椅子に座り、果物を食べたり不思議な香りのするお茶を飲んだりして誰かが来るのを待ったが、十分以上経っても誰も来ない。
「奇妙だな・・・。」
 船長がぼそりと言った瞬間、けたたましくベルが鳴り響いた。
「緊急事態発生、緊急事態発生。ただいま空港内に危険生物が侵入しました。施設内にいる全係員は警戒レベル二の体制を取るように。・・・それから地球の方々、危険生物が侵入したので念のため霧状消毒をいたします。申し訳ありませんが消毒が終わり次第、速やかにお帰り下さい。」
「応対が素っ気ないのは、こういうことだったのか・・・。ともかく、すぐに帰るぞ。」
 霧を浴びながら船長が船員に伝える。
 霧が消えると、船員達は急いで宇宙船の方へ走っていく。警報を伝えるベルは空港内に鳴り響いていたが、不思議なことに船員達の足音以外は何も聞こえてこない。

「燃料は満タン、機械に異常はありません。」
 パイロットの声を聞くと、船長は無線でエレ星に伝えた。
「忙しいときに尋ねてしまい申し訳ありませんでした。それでは、我々はこれにて帰らせていただきます。」
「こちらこそ、ちゃんとした応対ができず申し訳ありません。気を付けてお帰り下さいませ。」
 宇宙船はゆっくりと上昇し、宇宙空間で光速飛行へと入った。あと一時間もすれば地球に着くだろう。操縦室の面々の気がゆるんだ瞬間、扉が開き見たこともない生き物が入ってきた。体は土色で、そこらじゅうが汚れて泥まみれである。そして、二足歩行はしているが、体からはウジのようなものがわき映画に出てくるゾンビにしか見えない。
「おのれ・・・貴様らの持ち込んだ生き物のせいで我々は・・・。復讐を・・・。覚悟し・・・。」
 生き物はそれだけ叫ぶと、その場に倒れ動かなくなった。副パイロットが武器を構え慎重に近づいたが、生き物の体は倒れた衝撃でバラバラになり再び動き出す気配がない。
「取りあえず衛生班を呼んで隔離ポットに押し込んでおけ。それから船内を全面消毒し、こいつの正体を調べるんだ。エレ星で言っていた危険生物かもしれんぞ。」
 船長の指示どおり船員は動いた。生き物は隔離ポットに入れられ、船内は消毒されたが誰にもどこにも異常はなかった。

 その後は何の問題も起こらず、宇宙船は無事に地球の空港に着陸した。船員に宇宙船の機器に異常がないか点検したあと外に出るよう船長は命じた。
 船員たちは全員がひとかたまりになり、空港で待機していた人たちの方へ向かっていった。
 科学班の人間が船長に近寄り、囁いた。
「船長、あの生き物のことなのですが・・・。」
「どうだった?」
「あの生き物は、エレ星人のようです。遺伝子検査で九十七パーセント一致しています。それで、あのエレ星人の推定年齢は三十五歳、特に病気をした形跡はありませんが、体の中にある生き物が入り込みあのような姿になったようです。」
 科学班が妙に暗い顔をしているので、船長は眉をしかめる。
「そのエレ星人に入り込んだ”ある生き物”とは何だ?」
「それが、ミミズらしいんですよ。まだ遺伝子解析が進んでいないので、どの星のミミズかは分かりませんが。」
「ミミズねぇ・・・。私は生物に詳しくないが、宇宙には様々な種類のミミズがいるらしいな。和親条約のことを考えると、地球のやつでないこと祈りたいものだ。」
「ええ、西部開拓ではミミズのおかげで肥沃な土地が生まれたそうですが、宇宙開拓で友好関係が干上がったなんてシャレになりませんからね。」
 彼らの後ろで、いくつもの大地を踏みしめた巨大な宇宙船が太陽の光を反射していた。


 アメリカ大陸には元々ミミズはいなかったそうですよ。開拓者が連れ来た家畜の足にタマゴが挟まっていたために、増えたとか。



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