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SSの幼生


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歓迎
 惑星で使われている言葉は分からないので、地球のありとあらゆる言葉を発しながら、宇宙船は着陸しようとした。
「あなた方を歓迎します。」
 誰かがこう反応してきた。アクセントが少しおかしいが、こちらの言葉を解読してくれたらしい。隊員たちは少し安心して、地表との距離を狭めることに集中した。
 しかし、音もなく宇宙船が地上に触れた瞬間、地面が破裂した。機体が大きく揺れ、土煙に取り囲まれてしまった。さらに、数名の人間が現れ、宇宙船のエンジン部分を破壊してしまった。
「レーダーに地雷の反応はあったのか?」
 衝撃で椅子から転がり落ちた艦長が、腰をさすりながら聞く。
「いいえ、地下百メートルまでそのような反応はありませんでした!! それよりも、惑星の人間の攻撃で艦のエンジン部分が破壊されてしまいました。ああっ! 入り口が破壊されて中に入ってきます!!」
 この報告が終わるか終わらないかのうちに、武装した人間が現れ、隊員達に麻酔銃を放ってきた。隊員達は抗戦しようとしたが、それよりも早く麻酔弾が彼らの体に突き刺さった。
「うぅ・・・、なぜだ?」
 最後まで抵抗しようとしていた艦長も、意識を失いその場に倒れた。武装した人間達は、宇宙船の隊員達を担ぎ、どこかへ連れて行ってしまった。

「おい、起きろ!」
 誰かに頭を叩かれたのを感じ、隊員達は目を開いた。徐々に先ほどまでの出来事が思い出され、全員が慌てて周囲を見渡す。
「これで全員起きたな。じゃ、先生、講義を始めてくれ。」
 学校の机のようなものに他の隊員達は全員座らされていた。また、部屋の周囲は兵士達が待機し、隊員達の前には講壇がありメガネをかけた中年男性が立っている。
「それでは皆さん。これから話す説明をよく聞いてくださいね。」
 中年男性はニコニコしながら話し始めた。なぜ、これほどまで流ちょうに地球の言葉が使えるのかは分からないが、そんなことを考える余裕はない。
「皆さんは地球という惑星から来ましたね。そこには約67億の人間が住んでおり、他の惑星には生命体はいませんよ。さらに・・・。」
 メガネをかけた中年男性は延々と説明を続けた。始めは隊員達も知っている知識であったが、後半の知識は地球では未だ調査中の内容であった。
「さて、太陽系の説明はこれくらいにしておきましょう。どうして、こんなことを知っているか分かりますか? 私たちはあなた方よりも数万倍長い歴史を持ち、ありとあらゆる技術や知識を知っております。そりゃぁもう宇宙の隅から隅まで知らないものはありません。」
 中年男性があまりにうれしそうに話すので艦長が横槍を入れた。
「あなた方の技術力は先ほどの襲撃で嫌と言うほど思い知らされたよ。しかしね、どうして宇宙船を破壊して我々を捕らえ、こんな教育をしてくるのだ?」
 中年男性は少しがっかりした表情を見せたが、口元の笑みは変化しなかった。
「ですから、あなた方に我々のすばらしさを教えるためですよ。」
「ならば、普通に歓迎するだけでいいだろう?」
「ちょっと驚かせただけですよ。その様子だと、かなりご立腹のようですね。度が過ぎたことをわびましょうか?」
 艦長が何か言う前に、部屋の壁が動き透明の壁が現れた。自分たちのいる部屋の周りの光景を見た隊員達は驚きの声を漏らした。目の前には地球と月にしか見えない星が見える。もし目の前の星が地球でなくとも、宇宙空間にいるのは間違いない。
「・・・! 我々が捕らえられてどのくらい経ったのだ!?」
 艦長が中年男性に聞いた。彼は目の前の星を地球と判断したらしい。
「あぁ、そうですねぇ、三十分くらいですかね。あなた方は三年ほどかけて来たそうですが・・・。」
 隊員達は信じられないと言うように皆立ち上がり、透明な壁の側に近寄り地球を見つめている。兵士達は少し嫌な顔をしたが、特にとがめようとはしていない。
「お前達は本当に我々を歓迎しているのか、それとも排除しているのか?」
 艦長は困惑しきった顔で、中年男性に尋ねた。
「歓迎はしていますよ。排除したければ、あなた方が事前調査を行っている間に、レーザーで打ち落としています。」
「そうか・・・。」
 地球のレーダーには絶対に捕らえられない特殊迷彩を施していた自分たちの船に、始めから気づいていたことを知り、艦長はため息をついた。まるで、釈迦の手のひらで暴れている孫悟空のような感じがした。
「そろそろ、お別れの時間です。皆さん、ちょっと揺れますから椅子に座ってください。」
 宇宙船は音もなく地球へ近づいている。隊員達は椅子に座り、何度も見た地球の大陸をぼんやりと眺めていた。
 宇宙船はどこかの空港の滑走路に着地したようだ。兵士が扉を開け、「気を付けて降りろ」と言う。
 全員が降りたとき、中年男性が隊長の前に立ち、にこやかに笑いながら礼をした。隊員達もそれに倣った。その後、艦長が一歩前に進み中年男性に声をかけた。
「一つ、お願いしていいか?」
「この星に残って、新しい技術を教えてくれと言いたいのでしょう? ですが、それは無理です。」
「よく分かるな。しかし、なぜだ?」
「皆さん、同じことを頼みますからね。まぁ、神でもない生物が世界の全てを知って何になるのでしょうね。これ以上、何一つ新しいことはないのですから。」
「はっはっはっ。高級な悩みだな。だが、俺たちはそれを知らない。だから、知りたいんだ。」
 異星の人々はそれ以上何も答えなかった。代わりに、扉が閉まり宇宙船がゆっくりと上昇していった。
 地球に戻された隊員達は、異星の人々が別れ際に見せた悟りの境地に達したような寂しげな笑顔を見て、なぜかは分からないが自分たちの方が遙かに幸せな生活を送っているような気がした。


 予定だともっと軽い話になるはずでした。しかし、一度作ってみたら軽すぎて、文字通りお話になりませんでした。
 そこで、このようにして多少まともにしました。



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