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SSの幼生


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衣服
「博士、いますか? 私です、伏島製作所の伏島ですよ!!」
「はいはい。」
 二人は入り口で軽い挨拶を交わし、椅子に座り向かい合った。
「今日はどのようなご用ですか?」
「博士のお力を貸していただきたいと思いまして・・・。」
「ほぉ・・・。それは、一体どのような?」
 伏島の話を聞くところによると、来週に開催される力自慢大会に出場するので、素早く確実に筋力を付ける方法を聞きに来たらしい。
「しかし、伏島さんならば・・・ご立派な体格ですし。」
「そう言ってもらえるとうれしいのですが、大工の原ちゃんがもますから・・・。」
「ほぉ・・・、菅原さんもねぇ。それは名勝負となりそうですなぁ。」
 この菅原も立派な体格の持ち主で、この地区で相手になりそうな人物といえば目の前にいる伏島しかいない。
「ですから、なにとぞ!」
 博士は頭をかきながら、研究室に行き、透明で薄い不思議な衣服を持ってきた。
「この服は、身につけて一晩寝ると、体に吸収されて筋肉になるんですよ。まぁ、これを毎晩着れば筋肉はつきますよ。」
「本当ですか!?」
「まぁ、付きますよ。ちゃんと。」
 博士は腕まくりをし、力こぶをつくった。はち切れそうな上腕筋を見た伏島は、服の効果を確信し、一週間分の七着もらい帰っていった。
 そして、大会当日。ひとまわり体つきが良くなったように見える伏島は、菅原と一緒に大会の様子をじっと見つめていた。大会のルールは単純で、米俵を一個担ぎどこまで運べるかの勝負であった。
 先ほど、菅原が新記録を出し、大会は大いに盛り上がっている。ついに、伏島の番が来、彼はゆっくりと米俵に手をかけた。ちらと周りを見ると、博士がこちらを向いているのが見えた。
「んぐっ!!」
 伏島は俵を肩に担ごうとしたが中には砂利が入っているらしく、予想以上に重いため無理のようだ。そこで、胸の辺りに俵を当てながらフラフラと歩いた。彼の筋肉はパンパンに張っていたが、菅原の記録よりも五メートル長く運ぶことができた。大会は伏島が優勝し、彼はトロフィーをもらいうれしそうに帰宅し、すぐに博士にお礼を言いに行った。
 翌日、伏島は朝起きて体の異変に気づいた。体中が猛烈な筋肉痛で痛むのだ。どうやら、服を吸収して筋肉が付いていたが、それは鍛えられていないウブな筋肉だったらしい。結局、彼はその日仕事を休んだ。理由は「昨晩はしゃぎすぎて風邪をひいた」ということにして。


 たまには軽いタッチの話を・・・。ということで作りましたが、軽すぎでしょうか。
 「うぐぅ。」ではなく、「んぐっ!」ですから、変な反応を起こさないでください。



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