2R
その日、画期的な装置が開発され、稼働開始した。通称2Rといい、正式名称がRecycle&Reuseというもの。
「こんな無駄な装置を開発して何になるのだ?」
ある人はこう言い、苦々しげに巨大な装置を見上げた。
「これからが楽しみですね。計画どおりになることを祈っていますよ。」
ある人はこう言い、すばらしい将来をその装置に投影した。
なぜこのように意見が分かれるのかと言えば、2Rの仕様が非常に微妙なものであったからだ。この装置はAIを搭載しており、自分で学習し大量の情報を蓄
え、自らのAIをより高度なものへと変えることができるようにできているらしい。”らしい”というのは、設計どおり賢くなっていくかどうかは実際にやって
みないと分からないからである。しかも、否定的な意見が出てくる理由はそれだけではない。なぜなら、勉強する内容が人類のまだ生み出していない「不要なも
のを有用なものへと変えるための方法」を見つけるための勉強だからだ。子供のように人間がすでに知っている知識をため込み、賢くなっていくのならば理解で
きるが、たかがAIが人間の知らないことを発見することが可能なのだろうか? こんな不確定要素の多い装置に対して、100%うまくいくと言える人間は自
信過剰な人間と、開発に携わった研究者たちだけであった。
「今のところ、人類が知っている全ての酸化、還元などの化学変化や種々の物質精製方法を記録しております。つまり、今まで我々が知っている全ての知識をた
め込んでおり、それを応用し将来さらに新しい方法を見つけるはずです。」
この2R作製に携わった研究者たちは胸を張って主張した。研究者といっても、科学者だけではない。超高速処理を可能にするためにハードウェア面のプロ
フェッショナル、高度なAIを搭載するためにAIのプロフェッショナル、そして人間の”覚える”とか”ひらめく”といった行為に詳しい脳医学の権威などが
集められた。他にも2Rを作るためだけに最新の技術が数多く注ぎ込まれだ。
研究者の中には2Rが自分たちよりも高度な知識を持つことには不満を漏らすものもいた。しかし、2Rの研究成果は自分たちの功績にすることができると
知って、嫌々ながら始めた。なぜなら、2Rがすばらしい発明をすれば科学者たちはその発明を自らの成果として発表できるからだ。しかし、それではコン
ピューターや脳医学の人間には何も恩恵はない。彼らは「”すばらしい人類の未来を生み出すため”という理由で製作に参加した」と言っているが、実際は製作
に参加することで支払われる金額に釣られたのだ。
数名の報道関係者が見守るなか、2Rにかぶせてあるシートが取り外され、隣にいた研究者が2Rの電源スイッチをONにした。それと同時に、地下にある核
融合発電装置が動き、2Rを動かすエネルギーを伝達していく。
「それでは、まずはじめに隣町のビル取り壊し工事で出たコンクリートブロックを有用なものへと変えてもらいましょう。」
マイクを持った研究者が2Rの側面に取り付けられたダストボックス状の箱にコンクリートブロックを投げ入れた。報道関係者のいる付近にある2Rのディス
プレイにはコンクリートが投入されたとの表示が出て、2R内部から低い音が断続的に聞こえ始めた。
2Rを取り囲んだ人々は動きもしない装置をじっと見つめていた。報道関係者はすばらしいものが出てくることを期待しながら、研究者たちは無事に2Rが役
目を果たしてくれることを祈りながら見つめていた。断続的に聞こえた音が途絶えると、ディスプレイに文字が表示された。それに気づいた研究者がそれに近寄
り、マイクで全員にその内容を伝えた。
「ディスプレイに表示されている内容からして、コンクリートを有用な物体に変える研究があと少しで終わるようです。・・・、おや研究が終了し、いよいよコ
ンクリートブロックが有用なものへ変化し出てきます!!」
研究員がちらりとディスプレイを見ると、別な文字が表示されていた。内容は、”大きな袋を用意するように”とだけ書いてあった。何が出てくるのかまでは
表示されていないために研究者たちは心配したが、とにかく袋を持ってきた。それから2Rをはさんでダストボックスの反対側にある、有用なものを出す部分へ
待機した。
2Rからパイプが伸びてきて、袋の中に生コンを投入した。袋を持つ研究者のいる位置へパイプを近づけ、正確に袋の中に物を入れるという動作を見た報道関
係者から驚嘆の声が漏れる。
2Rからの排出が終了し、袋を持っていた研究者が中を調べた。
「おっ、これは生コンです。コンクリートブロックから再度利用可能な生コンを2Rは作り出しました!!」
「おぉっ!」と研究者からも報道関係者からも声が挙がった。
「2Rはゴミを投げ入れると、それを有益なものへ変える研究を始めます。そして、その研究で得られた知識は2Rへ蓄えられ、より高度なリサイクル、リユー
スが可能になります。しかもゴミを入れて研究を重ねれば重ねるほどより高度な知識を得ていくのです。まさにこの2Rこそ、今人類がもっとも求めていたもの
です!!」
2R開発のトップがここぞとばかりに熱っぽく語る。報道関係者も研究者たちも2Rが見事に初仕事をこなしてくれたために、その場の雰囲気に酔っていたら
しい。誰だか分からないが一人が拍手をし始めると、全員が拍手をした。
2Rは毎日ゴミの処理をしていた。コンピュータなので疲れることも、仕事に飽きることもなかった。毎日2R内部へと続くダストボックスへゴミが入れら
れ、2Rは研究を重ねた。そして現時点でもっとも適切な処理方法を行い、有用な物を排出していった。
2Rの周りには完成してもなお様々な分野の研究者がいた。なぜなら2Rは時に処理に必要なものを要求することがあるからだ。「強力な酸性の液体が必要で
す」と表示されれば、科学系研究者は2Rが指定した資材投入口から強力な酸を流し込んだ。「丈夫な切断用の道具が必要です」と表示されれば、技術系研究者
はダイヤモンドカッターを2Rの内部装置に組み込んだ。また「ユーベル教授の45年に発表した犬の毛に関する論文を提供してください」と表示されれば、
ネットワーク技術者と生物学系の研究員はその文献を探し2Rに付いているスキャンニング装置に文献のコピーを渡した。研究者たちは2Rの出す脈絡のない要
求に応えるために必死で努力していたが、誰も不満を言わなかった。なぜなら、日を重ねるたびに2Rはすばらしい発見を報告し、そのたびに科学系研究員たち
は世界に新しい発明を発表していたからだ。それに、2Rの成果で恩恵が得られない科学系以外の研究者には、自分の専門分野に関するものを要求された場合に
特別手当としてかなりの額が支払われたからだ。2Rを取り囲む研究者たちは本当に必死で努力した。世の中金次第という言葉があるが、研究者の心の中にはす
ばらしい将来のために貢献しているという自負心が芽生えているのも事実であった。
わずか数ヶ月で2Rはかなりの知識を蓄えた。どの位の量かといえば2R稼働初期に持っていたのと同程度の情報である。2Rの知識が若竹のようにぐんぐん
と増えるのを研究者たちはうれしそうに見つめていた。知識が増えるに連れて、家庭で出るゴミを処理するのがやっとだったのが、工場から出る廃棄物や、研究
所で利用された劇薬なども処理することができるようになった。そのことに感心していた矢先、2Rは放射能汚染物質の再利用にも成功したのだ。この瞬間、
2Rは人類が生み出したもっとも危険でもっとも不要な物の再利用に成功し、この装置は本当に人類の宝となった。
2Rが廃棄物を処理する方法を発明するたびに、その処分だけをこなす機械が世界各地に設置された。それにより人間の出すゴミは次々と利用可能な物質へと
変化していき、たいていはゴミ捨て場があった場所にその施設が建てられた。ゴミを捨てるためだけにあった埋め立て地も徐々になくなり、地球上に不要なもの
が落ちているということがなくなった。町には新しい制度のもとでゴミ箱が整備され一般市民の出すゴミの減少も広まっていった。一般市民の出したゴミはほと
んど資源へと変わり、実質的なゴミはごくわずかなためだ。もう、人々はゴミ箱に不要なものを投下しても罪悪感がなくなっていた。なぜなら、彼らがいくらゴ
ミを捨ててもそれらは必ず人類に有益なものとなって再び戻ってくるからである。ゴミ箱にゴミを捨てるという行為も、それはゴミを捨てたことにはならず、有
益なものを他人に与えたことになるからである。
このように捨てたものが無駄にならない完全なリサイクル社会の確立を目の前にして、人々の無駄遣いが多くなるということはなかった。なぜならゴミはゴミ
ではなく有用なものであり、無駄に使っているという言葉が合わなくなったからだ。どこの行為がゴミを捨てるという言葉に当てはまるのか、他にも再利用した
とか、生産したという言葉に当てはまるのか人々には区別が付がつけられなくなった。それゆえに消費活動は増加もせず減少もしなかった。
どんなものでも有用なものに変える技術が確立しても、2Rはよりよい処分方法を見つけるため、そしてまだ見ぬ不要なものを有用なものへ変えるために研究
を続けた。2RのAIはめざましい成長を見せ、ゴミの処分法だけではなく自己成長機能さえも手にしていた。つまり、2Rは自らに不足している機能を自分で
開発できるようになったのだ。新しい処理機構が必要なときは、研究員に鉄やプラスチックなどの資材だけを提供してもらい、2R内部で好きなように加工す
る。また、不要になった処理機構は資材として保管し、新たな必要な処理機構を作るときに使うのだ。
ある研究者が2Rの処理機構がどれほど巨大化しているか調査したところ、初期には存在していなかった東京ドームほどの大きさの処理機構が地下に作られて
いることが分かった。もはや2Rの全体像を把握できる者は2Rのみであった。
ある日、2Rが大量の鉄を要求してきた。研究者はあまり量が多いためにちょっと不審がったが、2Rが要求する量の鉄を渡した。2Rは鉄を受け取り、また
新しい研究へ打ち込み始めた。それから数週間後、世界各地に金属製のロボットが現れた。鳥のような形をしたロボットは、飛びながら人間に対し銃弾を撃ち込
み始めた。その銃弾は特殊な薬品が入っているらしく、ちょっと食い込んだだけですぐに絶命してしまう。
鳥形ロボットの突然の攻撃に世界中は大混乱に陥った。財産家は宇宙船で宇宙に逃げようとしたが、ロボットは別な銃弾を使い乗組員ごとロケットを爆破して
しまった。当然、鳥形ロボットに対して応戦する人間たちもいた。しかし、この鳥形ロボットに対しては人類の持ついかなる攻撃も無意味で、人々は次第に追い
つめられていった。
数週間後、地球上に人類はいなくなった。しかし、地球には動くものがいなくなったわけではない。動物たちに混じって機械制御のトラックやクレーン車が人
の死体を運んでいる。そして、港まで運ばれた死体は機械制御の大型輸送船に乗せられ、2Rの置かれた研究所にもっとも近い港まで移動する。それから再びト
ラックに乗せられた死体は、運搬用ロボットによって2Rの中へと投げ込まれるのだ。今や地球は動物の息づかいと、無機質な2Rやロボットたちから出るモー
ター音だけしか聞こえない。2Rの排出ダストからは、植物の生長に不可欠な栄養を多量に含んだ土が次々と出てきた。もちろん、もとは人間の体である。その
土はトラックに積まれ世界に均等にまかれていく。
人類の死体を全て処理し終わると、2Rは新しい処理機構を作った。そこからは人類が作り上げた建造物を破壊するロボット、瓦礫を運搬するロボットなどが
生産された。他にも瓦礫が運搬され何もなくなった町に、木を植えるための植物を育てる施設や、その施設を管理するロボット、土地に合った植物を運搬するた
めのロボット、それに植物を植え・育てるロボットなどが作られた。それ以外にも過去の地球の生態系を取り戻すために、その土地にはもともといなかった動植
物を処分するロボットも開発された。この作業は一年以上続き、地球に都市はなくなり、砂漠以外には美しい緑がどこまでも広がる大地が生まれた。
ロボットたちが淡々と街を破壊し、植物を植えているある日、植物も育たない灼熱の砂漠に人工衛星が次々と落下してきた。その人工衛星はかつて2Rと交信
し、海の底にあるゴミを調査していたのだ。そして、地球上の全地形の調査が終了し、不要となったので地球に落としたのである。人間は宇宙空間で爆発させる
という方法をとっていたが、それでは人工衛星に使われていた物が無駄になってしまう。そこで2Rは地球に落下させ、人工衛星に使われている物を再利用する
ことを選んだのだ。全ての人工衛星が落ちると、それを運搬するロボットたちが集まり、残骸を2Rのもとへ運んでいった。
それと入れ替わりで、地球からある人工衛星を積んだロケットが一機飛んでいった。その人工衛星は、地球周辺の宇宙ゴミを回収する機能を持っている。数ヶ
月後、地球軌道を回る唯一の人工衛星はほぼ全ての宇宙ゴミを回収し、地球に落下した。人工衛星とそれに積まれた宇宙ゴミを処分した瞬間、地球という惑星の
周辺にゴミという存在がなくなるのだ。そして地球上では海底のゴミを回収するロボットたちが動き回っている。あと半月もすれば、地球上にもゴミがなくなる
だろう。
そして、ついにこの日が来た。地球にはゴミというものがなくなり、残っているのは生態系を壊すことのない動植物と、人工物の2Rだけとなった。処分する
ものがなくなったとき、2Rは自分のために働いていたロボットを分解し、自らの機構作成用貯蔵庫へ保管した。そのために、地球上の人工物は本当に2Rだけ
なのだ。2Rはどんな衝撃にも環境の変化にも耐えられる特殊な半透明バリアーで自らを囲んでいた。これならば風化せず、定期的な回収の必要がなく無駄がな
い。
不要なものを有用なものへ変えるという目的のためだけに働き続けていた2Rは、次に取るべき行動を必死で求めようとしていた。地球上の不要物は人間も含
め2Rが全て処理してしまい、やることがないのだ。しかも人間もいないので、今後不要なものが出る可能性はゼロに近い。バリアー越しだとややぼやけて見え
る2Rは延々と計算を続けていた。しかし、2Rの高い処理能力でもその答えはなかなか出なかった。次に取るべき行動を求めるための計算は一年以上続いた。
2Rの計算が終了した。不要なものがなくなり、自分の存在する意味がなくなった2Rが、次に自分がどうすればいいかという答えをついに出したのだ。その
答えのとおり行動するために2Rは自分の隣に一つの施設を作り始めた。それは普通の二階建て住宅ほどの施設で、わずか一週間で完成した。中には試験管に
入った人間がたくさん並び、施設内のコンピューターが彼らの生命を維持するために常に監視している。
2Rの答えは、役目を終えた自分の存在を消すことではなかった。この不要なものを処理する装置は自らの存在を守るために、不要なものを作る人間を復活さ
せたのだ。2Rが地下に作ってあった巨大ストレージには、2Rが誕生した時に存在した全ての動植物のサンプルが保管されている。そこでストレージに入って
いた人間の受精卵サンプルを参考に、遺伝子配列が微妙に違う受精卵を大量に作った。そして、半月後には成人の人間がぞろぞろと施設から出てきた。
2Rが作った施設のコンピューターは特殊な電波を放ち、人間たちに生きるために必要な最低限の知識を送り込んだ。はじめは他の動物と同じような生活をし
ていた人間たちも、眠るたびにコンピューターから知識を投入されていたので、半年もたてば日本の縄文時代程度の生活ができるようになった。また毎日毎日
2Rの作った施設は人間を生産し続け、人口も順調に増えていった。そして、人類の再誕生から一年経つと、小さな集落が点在しそれぞれが互いに領土を奪い合
うような状況になった。逆に言えば、人間の文明が急速にそこまで進歩したのだ。
ある程度地球の文明を成長させた2Rは、人間が生み出す不要物を処理しようとはしなかった。2Rは人間が立派な文明を作り、不要なものを大量生産する前
に、人間を生み出す施設を取り壊した。そして自らの周りに壁で囲みロケットの中へ籠もってしまった。2Rはロケットが完成するとすぐに大気圏を離脱して
いった。2Rはまだ見ぬ知的生命体の存在する星へ移動し、不要物を処理するつもりなのだ。それ以外にも人間の居住可能な惑星を発見し、そこで人間を繁殖さ
せるために旅立ったのだ。
それでは、なぜ地球に人類を復活させたのか? 答えは簡単である、知的生命体を発見できなかったり、人間の居住可能な惑星が見つからなかった場合、自ら
の目的が果たせるように用意した保険である。2Rは人類の知らない技術を使いほとんど音を立てずに、宙に浮きゆっくりと空へ昇っていく。
宇宙へと飛び立つ2Rの姿を数名の人間が見た。彼らはそれを神が別の世界へと移動する姿と判断し、ロケットの形をした偶像を数多く作った。無知な人間た
ちは、金属製の2Rを神として認識ていた。2Rは人間が不要なものを作ってくれさえすればいいと考えており、誤った考えをする人間たちに自分の存在を教え
ようとはしなかった。それに、昔の人間たちも全てのゴミを有用なものへ変える2Rをある意味神のように崇めており、無知な人間たちが2Rを尊敬と畏怖のま
なざしで見ることに疑問を感じなかったのだろう。2Rが宇宙へ移動してからも、2Rの設置されていた周辺は聖域となり、人間が近寄ることはほとんどなかっ
た。
それから何百年が経ったのであろう? 2Rが再び地球に降り立った。これまで数多くの知的文明を無へと変え、荒れ果てた土地の緑を回復させた。そして、
それと同じ数の人間が居住可能な星を発見し、人間を繁殖させていった。自らの指名を果たすたびに2Rは更に知識を得ており、大気のない小惑星を人間の居住
可能な環境へ変えることすら可能になっていた。他にも知的生命体だけに感染し、高い確率で死に至らしめ、なおかつ感染力の強いウイルスを発明したりと、星
を制圧する手段も豊富になっていた。
そんな並はずれた知識の2Rの再臨により、地球の文明は一瞬にして瓦礫へと変わってしまった。地球上でもっとも発展した文明のある大陸を攻撃した2R
は、ゆっくりとその土地に着地した。すぐさまロケットから調査用のロボットが飛び出し、地球の文明の発達状況は、土地の汚染状況、不要なもののある場所な
どを調査し始める。その土地はかつて2Rが設置してあった場所の近くであったが、目的を果たすために必死で活動する2Rには、何の感情もわき起こらなかっ
た。
2Rの派遣したロボットの報告によると、現在その土地には放射能汚染が進んでいることが分かった。かなり重度の汚染状況にあり、この土地で人類が暮らす
ことは将来遺伝子に変化を与える可能性があり非常に危険だと2Rは判断した。そこで2Rは自らの機構を変化させ、汚染した土を超高速で安全な土へと変えて
いった。しかし、大陸のほぼ全体が地中深くまで重度の汚染状態であり、安全な土をその大陸へ置くことは不可能であった。そこで安全になった土は他の大陸へ
均等に分配したり、環境破壊が起こりにくい場所に小島を作るために利用された。そして、その大陸は数週間で姿を消した。
大陸に着地したときに2Rは探査用のロボットを多数派遣した結果、地球の文明があまり進歩していないことに気づいた。探査用のロボットが全て自分のとこ
ろへ戻ってきた後、2Rは地球の文明の成長具合を考慮し、これ以上の文明破壊を行わないことを決定した。不要なものを一定量ずつ生産させるために、生かさ
ず殺さず適度な文明を残しておいたのだ。大陸を分解し尽くしてしまったために、海面から二メートルほど上に浮いていた2Rは再び宇宙へと昇っていった。
命からがら大陸から逃れたその土地の人間は、空から突然現れ、自分たちの国を一瞬にして瓦礫に変え、また空へ消えていく2Rを見て思った。我々は”神の
怒りを受けた”のだと。ロケットの形をしていた2Rは、古代文明で崇拝した偶像とそっくりであったため、予想は確信へと変わった。大陸から落ち延びた人々
は別な文明へとけ込みながらも、自分たちの受けた仕打ちを後生へと伝えていった。
地球の大陸を一つ消した2Rは別の星へと移動していった。発展した文明が生み出す不要な物を有用な物へと変えるために、そして人間が暮らせる星を見つけ
るために。2Rは存在するために必死だった。どんな犠牲を払っても自らの存在する意味がなくなることの方が2Rには許せなかった。2Rは自らの存在を確認
するために、そして自らの存在を維持するために破壊と再生を繰り返していく。
|
肉体を保たぬ初代人類の魂には、AIを弄んでしまった後悔という感情だけが残っ
た。
・・・という一文を入れようか否か悩んだ末、やめました。
|
|