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SSの幼生


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夢のまた夢
 「アナタの悩み、解決します」。この看板が立てられた、しごく一般的な人生相談所。扉の向こうには、客が座るソファーが二つとその前に置かれた小さな 机、それから事務所にありがちなネズミ色の机と椅子のセットがあるだけだ。客の心をいやす美しい絵や、誰もが振り返る美貌を持つ受付嬢などのおまけ要素は いっさいない殺風景な相談所。しかし、この相談所はなぜか評判がいいのだ。
 運営している男性の力量なのだろうか、それとも訪れる客の悩みがくだらないものなのかは分からない。とにかく評判がよく、この人生相談所の噂は徐々に広 まっていった。
「こんにちは・・・。」
 暗い顔をした中年男性が入ってきた。
「はい、こんにちは。あなたは?」
「はい。私、昨日電話した尾崎という者です。」
 そう言ってて中年男性は頭を下げる。
「はいはい、尾崎さんですね。分かりました。さ、さ、どうぞそちらにある椅子に腰掛けてください。」
 尾崎は椅子に座った。
「申し遅れましたが、私この相談所を運営しております駅宮小路と申します。」
 駅宮は立ち上がり、尾崎に名刺を渡した。
「さっそくですが、あなたの悩みとはどのようなものでしょうか?」
 この言葉で、暗い顔をした尾崎の顔がさらに曇りだした。駅宮が事務所の机を前にふんぞり返って座り、尾崎は小さなソファーに座っているのが今の状況であ る。駅宮は高いところから尾崎を見下ろし、事情聴取のような口調で尋ねてくる。尾崎は上司に問いつめられているような感覚におそわれた。
「もうこの生活に飽きてしまったのですよ。」
「ほぉ・・・。生活に飽きた・・・。ところであなたの職業は何ですか? なに言いたくなければ、会社名などを細かく言う必要はございませんよ。」
 特に相手を同情するような言葉もなく、駅宮は人生相談を生業とする”商人”の姿へ変わっている。
「会社員です。」
 ぼそっと尾崎は言った。それからしばらく沈黙が続く。
「ふーむ。会社員ですか。ここだけの話、この相談所を利用する方のほとんどが会社員なのですよ。それに、悩みもあなたのようなものと似たり寄ったりで す。」
 尾崎は黙ったままだ。一方の駅宮は相手の顔を見ることなくしゃべり続ける。
「私も会社員なんてつまらないものだと思いますよ。毎日毎日単調な仕事を繰り返し、家に帰るのは夜遅く。食事を済ませたらさっさと風呂に入り、翌日朝早く 出勤する。休日は疲れがたまり、眠るだけ・・・。それでも疲れはとれずに、どうしても心の中にモヤモヤがたまっていく・・・。違いますか?」
 駅宮の問いに、尾崎が小さくうなずいた。駅宮の言葉で現実を思い知らされ、尾崎はうなずいたまま下を向いている。
「ちょっと席を空けますよ。」
 駅宮は立ち上がり、入り口から見て左側の部屋に入っていった。それから、食器がふれあう音が何度か聞こえ、彼はコーヒーを入れたカップを二つ持ってき た。
「普段は眠っている休日に一念発起してここにいらっしゃったあなたの志は、普通の方のそれではありません。とはいえ、まだ少し眠気が残っていませんか?」
 駅宮もソファーに座り、カップを机に置いた。
「こんなことを言っては酷かもしれませんがねぇ・・・。この相談所には、仕事、家族、恋愛、人とのつきあいなどの様々な悩みを持った方がいらっしゃいま す。しかしですね、どの悩みも私には解決できません。解決できるのはあなただけなのですよ。」
 しれっとした表情でこう言った駅宮はコーヒーをぐいぐいと飲んでいる。そんな彼を、尾崎は呆然として見つめたままだ。半分ほどコーヒーを飲んだ駅宮は、 ちらと尾崎の顔を見て言った。
「そう悲しまないでくださいよ。私は直接解決することはできませんが、その手助けはできますから。」
 尾崎もおそるおそると言った感じでコーヒーに手を伸ばした。
「あなたは生活に飽きているとおっしゃいました。それでは、どのような解決法があると思いますか?」
 尾崎がコーヒーに口を付ける直前に、駅宮は質問をした。尾崎には駅宮の目がきらりと光ったように思えた。
「・・・、分かりません。」
「まあ、この質問をして即答できる方はここに来ませんよ。安心してください。では、ちょっとヒントを。単調な生活に飽きたのならば、生活に変化をつければ いいでしょう。もし変化させることができないのなら、心にたまるモヤモヤを消す方法を考えなければいけません。さて、あなたならどちらを選びますか?」
 尾崎はちょっと考えた。そして、コーヒーを一口飲む。
「そうですね・・・。今の状況では生活に変化をつける余裕すらありません。そうすると、何とかしてモヤモヤを消すしかないですよね・・・。」
「なるほど。モヤモヤを消すというのは、まあストレス解消方法ですよね。ストレス解消といえば、色々な方法があります。カラオケ、友達と世間話をする、運 動をする、大声を出す・・・。女性だったら買い物というのもあるでしょう。」
 そこまで言って駅宮はコーヒーを飲み干した。
「しかし・・・あなたにはそんなことをする余裕がない。違いますか? 休日には会社が休みで、あなたの友達も家にいるでしょう。しかし、その友達もあなた 同様寝ている・・・。この考えでいけば、休日は眠っているからカラオケも運動もできない。ましてや、大声を上げては近所迷惑になる・・・。」
 尾崎はまたもや現実を思い知らされ、うつむいた。そんな尾崎を無視して、駅宮は口を開いた。
「ところで尾崎さん。あなたは夢を見ますか?」
「え・・・? まあ、見ます。」
 突然話題が変わり、尾崎は動揺してる。
「どのくらいの頻度で?」
「週に三回くらいですね。」
「それなら、十分でしょう・・・。」
 その時、駅宮がスーツの内ポケットから錠剤の入ったケースを取り出した。ケースといっても、中に入っているのは一錠だけである。そしてその薬は、直径 2cmほどの円盤状で、色は白く印が入っていない。
「大丈夫です。覚醒剤や麻薬のような人生を崩壊に導きかねない薬ではありません。そんなものを勧めるようなところではありませんよ。」
「ではこれはいったい?」
「夢の中で眠る薬ですよ。」
「は?」
 駅宮は小さな箱を取り出した。その箱には例の薬の写真と、大手製薬メーカーの名前が書いてあった。
「まあ、大手だから安心しろとは言いませんが、いい薬ですよ。ところであなた、夢の中で眠り、そして夢を見る・・・。この現象をどう考えますか? 普通は ただの夢と片づけてしまうでしょうが実際は違います。」
 駅宮はぐっ顔を近づけた。
「普段眠っているときに見る夢の世界で眠る・・・。つまり、あなたはその時、第三の世界へ移動しているのです。夢とは脳が作り出す幻影ですが、その中で夢 を見ているとき、あなたは全く別の世界で活動をしています。もちろんあなたの意志で。」
「そ・・・そんなことが・・・。」
「信じられないのも事実です。別な世界にいるといっても、あなたの体は眠っており、意識もはっきりしていません。そのために、別の世界にいるという感覚が 持てないのです。しかしです・・・。」
 駅宮は錠剤の入ったケースを尾崎に握らせた。
「この薬は夢の中での意識をクリアーにしたまま、睡眠作用を引き起こすことができます。まあ、それによって確実に別の世界へ移動することができ、その世界 で自由に行動できるのです。別の世界といっても、SF映画で出てくるような怪物が闊歩するような世界じゃございません。その世界はあなたのような悩みを抱 える方々が集まり、お互いの気持ちを語り合うことができる世界なのです。もちろん、人気のないところで大声を出す方もいますよ。」
 尾崎は未だに信じられないようだ。
「私も知ったときは信じられませんでしたよ。しかし、試しに飲んでみたところ別の世界に行けました。別の世界は野原が続き、所々に森があります。それに適 度な温度で気持ちのよい風が吹いています。嘘かどうかは実際に飲んでみれば分かります。まあ今晩、試しに飲んでみてください。」
「はあ・・・。」
「さあ、胸を張って。今日のところは家に戻ってゆっくりしてください。それと食後にこの薬を飲むことを忘れずに。」
 相談所を出て、尾崎が出入り口の扉を閉めようとしたとき声が飛んできた。
「そうそう。他の世界からこちらの世界へ戻るときは、向こうの世界で寝ることになります。まあ、自然と眠くなって寝ると、目が覚めて朝になっていますよ。 向こうの世界の居心地がよすぎて寝坊することはありませんから、ご心配なく。それから一週間ぐらいしたら結果の報告に来てくださいね。」
 尾崎は礼を言って家に帰っていった。しかし、その表情はまだ完全に信じていないようだ。それでも、尾崎の姿を駅宮は満足そうに見つめている。

 尾崎は相談に行った日も仕事であった。彼はいつも通り仕事を終え、帰宅し食事を取った。そして、歯を磨いた後に駅宮に渡された薬を飲んだ。そして、いつ もどおり布団に入った。尾崎は今日の相談所での出来事を冷静に考えようとしたが、あっという間に意識がおぼろげになり、夢の世界へと移動していた。
 気づくと彼は森の中を歩いていた。その森は以前訪れた場所かもしれないし、自分の想像上のものなのかもしれない。夢の中にいると気づいた瞬間、尾崎は強 烈な眠気を感じた。二日間ほど徹夜をしていたような、立っていても眠れそうな眠気である。何とか眠れる場所を探さねばと歩いていると、目の前に柔らかな日 差しを受ける芝生が見つかった。彼は大きなあくびをしながら芝生の上で横になった。
 どのくらい眠ったのだろう。十時間近く眠ったような気もするし、まだ十数秒しか寝ていないような気もする。そんなことを考えながら目覚めた尾崎は、のび をしながら周囲を見渡した。目の前には落日のような世界が広がっている。日の出なのか夕暮れなのかを判断するために、尾崎はさらに周りを見渡したが、人の 気配がない。その時、彼は今いる場所は自分たちの住んでいる世界ではない別の世界だと確信した。空気が違うとか、生えている植物が違うとかそういうことで はなく、周りの全てが住み慣れた場所にはない異質なものなのだ。だからといって、無機質な金属製の世界のような居心地の悪いものではなく、異質ながら親し みを覚える何ともいえない場所であった。
 自分は人のいない別の世界にいると感じた瞬間、尾崎の心は躍り始めた。もう、今が日の出なのか夕暮れなのかということはどうでもよくなった。いずれ人が 現れるかもしれないが、今は誰もいないのだ。今ならば自分の中に積もり積もった思いをぶちまけることができると感じた。尾崎は落日のような世界に向かって 叫んだ。自分を取り巻く人々に対する怒りを、自分を取り巻く環境を、そして現状を変えられない自分のふがいなさを・・・。太陽が作る尾崎の影は徐々に長く なり、まわりはどんどん暗くなる。
「・・・白夜か。」
 言いたいことを全てぶちまけた尾崎は、この世界は夕暮れだったのだと気づいた。しかも、この世界では太陽が沈まないことにも気づいた。そのためにいつま でたっても、完全な闇夜は訪れなかった。そこで、彼は唯一知っていたこの状況を示す言葉を最後に吐いた。
 少し冷たい風が吹き始め、尾崎はぶるっと体を震わせた。そして、寒気を紛らわすかのようにあたりを散策し始めた。日が完全に落ちないために何かにつまづ くという恐れはないが、やはり初めて見る世界を歩くと言うことは勇気がいるものだ。とはいえ、この人間が踏み荒らしていない美しい世界を歩くと、心が洗わ れる気がし未知の世界にいるという恐怖は薄れていった。
 しばらく歩くと、すぅっと目の前に人が現れた。まるで空気からわいて出るように、現れた。この世界に来たときは、自分もあのような感じで現れたのだろう と尾崎は考えた。
「こんにちは。」
 この世界で初めて出会う人間である。尾崎はうれしそうに声をかけた。
「おや、こんにちは。あなたと会うのは初めてですね。どうぞよろしく。」
 尾崎が話しかけたのは、白いYシャツを着たサラリーマンで、年の頃は尾崎と同じであった。そのとき初めて尾崎は自分の服装を見た。彼は眠るときに着てい たトロピカル模様のパジャマ姿であった。サラリーマンはそんな奇抜な尾崎の格好を不思議に思うことすらなく、ニコニコしながら話しかけてきた。
「あなたも昼休みに昼寝をしてここに来たのですか?」
「いいえ、私は夜勤なのでこの時間眠っているのですよ。」
「そうですか。夜勤というのは私たち会社勤めの何倍も大変でしょうな・・・。」
 こんな感じで二人はしばらく雑談をしていると、サラリーマンが大きなあくびをした。
「おっと、昼休みもそろそろ終わりです。昼休みにはなかなか人に会えないので、いつも不満を叫んでいたのですが今日は楽しかったですよ。それで は・・・。」
「お仕事、がんばってください。」
 サラリーマンは返事をしてその場に横になった。すると、蒸発するかのようにその体が消え、あたりに再び静寂が訪れた。
「おや、あなたは昨日の尾崎さん・・・。」
 突然声をかけられた尾崎は驚いて振り返った。目の前には駅宮がいた。
「駅宮さん・・・。ありがとうございます。いい世界ですね。」
「そうでしょう。この時間でしたら尾崎さんは昼休みですか?」
「いえ、昨日は話しませんでしたが、実は夜勤なんですよ。」
「そうですか・・・。」
 そのとき、駅宮がにやりと笑った。怪訝な顔をしている尾崎を無視して、駅宮その場に座り込んだ。尾崎も何となくそれに倣う。
「ソーシャルネットワーキングという言葉をご存じですか?」
 またもや意外な質問をされ、尾崎は動揺した。
「いえ・・・。何ですか? それ・・・。」
「まあ、会員制のゴルフ場とでも考えてください。仲間同士だけが楽しく時間を過ごすための空間ですよ。それで、その空間には信頼できる仲間だけが招待され ます。排他的世界・・・と言われることもありますが。」
「はぁ・・・。」
「尾崎さん、あなたに渡した薬にはマイクロチップが入っております。眠っている間に脳を刺激し、この空間を作り出すのです。」
「えっ・・・。」
 夢の世界から別の世界へ移動して、今の世界にいると信じていた尾崎は、科学的な話へと急変しために驚きの表情のまま固まってしまった。
「そのマイクロチップは同じ空間・・・いや、同じ種類のマイクロチップを持つ人間と無線通信を行い、このように会話ができるのですよ。まあ、眠っている人 間に限られますがね。」
 駅宮は自分が座っている場所に生えていた草をちぎった。草はブチブチという音がし、駅宮の手を放れるとひらひらと落ちた。
「とても架空世界とは思えませんよ。これだけ現実感があるために、なおのこと心が洗われる感覚になるのでしょう。」
「では、私の体はそのチップに支配されているのですか・・・?」
「そう恐れなくとも大丈夫ですよ。今はペットの犬、猫にマイクロチップを組み込み管理している時代ですよ。犬や猫がマイクロチップを組み込まれて変な行動 を始めましたか? それに、このチップは様々な動物に使用され安全面は100%大丈夫です。それに現在、約千五百人がチップを使用していますが、誰も日常 生活に支障が出ていません。」
「まあ、そう言われれば・・・大丈夫でしょうけど・・・。」
 そう言って尾崎は不安そうに頭を小突いた。
「その小突くときに感じる腕の重さも、小突いたときの衝撃も全てチップの信号で生み出されいるのですよ。」
 駅宮は少し笑った。
「実は私ですね、人生相談所の所長という肩書きは表向けで、実は国家公務員なのですよ。あなたが悩みを解決して欲しいという電話をなすった後、すぐにあな たの身の上を調査しました。職業、家族構成、年齢、収入、住所、病歴・・・。まあ、住民票に書いてあるものがほとんどでしょうが・・・。それらの情報を検 討し、もっとも適当な空間を作り出すチップの入った錠剤をあなたに渡したのですよ。それがたまたま私と同じ空間でしたので、ちょっと昼寝がてら話をしに来 ました。」
「ところで、この空間のどこがさっき言っていた会員制のゴルフと関係があるのですか?」
 いかにも不安そうに尾崎が質問した。彼の手は、地面の草をせわしなくなで続けている。
「ゴルフ場はただの例えです。ソーシャルネットワーキングとは、仲良し同士の集まりです。それならば、ですよ・・・現実世界では何も関係がなくても性格的 に気の合う人間が集まれば、いずれは仲良しになることが可能であり、間違いなく仲のよい友人となる人物に出会うでしょう。そうなったとき、この空間はソー シャルネットワーキングと同じ状況となります。つまり、ここはあなたと気の合う人間ばかりが集まってくるのです。」
「はあ・・・。でも、どうしてそんなことを?」
「一般には公表していませんが、今や政府は国民に時間を与えることに躍起になっております。しかし現在の我が国を維持するには、国民に今までどおり仕事を してもらわねばなりません。あなたも悩んでおられたでしょう? 毎日毎日同じことを続けなければならず、生活に飽きたと。ほとんどの人が同じことを考えて います。もし、この単調な生活を続けさせると、国民が爆発し国を維持することができなくなるかもしれません。それならば、そんなことが起きる前に、単調な 生活を変化させる刺激を与えなければなりません。もしくは全国民がストレスを発散できる方法を確立しなければいけません。しかし、どんなことを行うにして もそれには時間が必要です。そう、現在の生活では一分たりとも無駄にできない時間が。なぜなら・・・それはあなたにもお分かりでしょう。今まで行っていな い行動するには絶対に時間が必要になります。しかし、何度も言うようですが国民には余った時間がない。それではどうやってこのキチキチに予定を決められた 日常に時間を与えるか・・・? それにはもう眠る時間を利用するしかないのです。」
「と、いうことは私は国のモルモットですか? この空間の安全性を確かめるための・・・。」
 ちょっと悲しそうな顔をして尾崎が言った。その表情を見た駅宮は励ますように優しく言った。
「そう悪くことを取らないでください。他の国民よりも先にすばらしい世界で日頃のストレスを発散できるのですよ。ところであなた古典作品を読んだことはあ りますか?」
 またもや唐突な質問により、尾崎の表情が変化する。
「いえ・・・。学校でちょっと読んだだけでほとんど覚えていません。」
「そんなものでしょう。今のあなたには必要のないことですから。でも聞いてください。昔の人は、夢で恋人に出会うと、その恋人が自分のことをいとおしく思 い、夢の世界で会いに来たと考えたそうです。これを夢のまた夢のばかばかしい話だと考えることができますか?」
「夢のまた夢・・・。」
 尾崎は眠気を感じ、大きなあくびをした。あまりの眠気に耐えきれず彼は横になり、ゆっくりと眠りにつこうとしている。そんな彼の体に、駅宮の声が染みこ むように響いてくる。
「この世界に来ることはあなたが求めたのですよ・・・。なぜなら、私の相談所へ来たのだから・・・。あなたが思い焦がれていたのはこの美しい世界・・・。 そして、ここに来る人々もあなたのような人を求めてやって来ます・・・。思い、求め合う・・・、この世界はそんな感じがしませんか? まるで昔の人が考え た夢のような世界だと。もうしばらくすれば、眠っている間は別の世界で自由な時を過ごすことが一般的になります。そう、互いに求め合う人や気の合う仲間と 会うことができるのです。どうぞ今後もこの世界で疲れを落としてください。それから・・・」
 そこまで言ったときに、尾崎の姿は消えてしまった。それでも駅宮は話し続ける。
「そして、これからも国のために働いてください・・・。」
 駅宮がそこまでしゃべったときに、後ろから足音がした。駅宮が振り向くと、会議中に眠った議員や会社員らが歩いてくるのが見えた。駅宮と後ろから来た人 々は互いに頭を下げ、現実世界の苦労を語り合った。この世界で眠気を感じるまで、そして現実世界で起きあがらねばならない時まで。


 ショートショートというよりも、短編の長さになりました。
 管理人はソーシャルネットワーキングを否定しているわけではありませんよ。否定はしていませんよ、しかし将来何かとんでもないことが起きるのではないか と危惧しているだけです。



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