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SSの幼生


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新手の誘拐
 家では家族が心配そうに座っていた。息子が帰ってこないのだ。
「学校ではちゃんと帰ったと言っているわ。」
「・・・。」
 父親は返事をせず、部屋の中をぐるぐると歩き回り始めた。
「わしがケイジを探しに行こうか?」
 祖母が声をかけるが、父親は黙ったままだ。
「父さん、おばあちゃんが探しに行くって・・・。」
「・・・。」
「父さん、僕が探しに行くよ・・・。」
 今度はケイジの兄、ジュンイチが父親に言う。しかし、父親は黙ったまま。
「父さん、何か言ったらどう?」
 母親が少々ムッとして言う。その時、突然父親が座り込んだ。そして、懐から携帯電話を取り出す。
「・・・、ケイジからだ。」
「えっ!?」
 一同が父親の携帯電話の画面を見つめる。一通の電子メールが届いており、父親はそれを開いた。
「ケイジ君の家の方へ・・・。(^-^)
 ケイジ君を誘拐した。返してほしければ、現金二千万円を用意して桃山公園に夜10時に来い。警察に知らせたら、ケイジ君には二度とあえなくなるぞ。 ( ̄ー ̄)」
 電子メールの中身はこれだけであった。しかし、家族は真っ青になってしまった。全員が無機質な携帯電話の画面を凝視している。
「どうするの? 二千万円なんてそんな大金うちにはないわ! 警察に電話しなきゃ!!」
 母親がヒステリー気味に言う。
「待て待て。警察に知らせたら、ケイジに二度と会えなくなると書いてある。これをどう考えるべきか・・・。」
 父親はそう言い、母親の袖をつかみ、電話に近づけないようにしている。
「ところでケイジは無事なのかねぇ・・・。」
 祖母は電子メールによる脅迫文のためか、どこかのんびりしている。そののんびりした感じが父親に伝わったのか、彼は少し考えるそぶりを見せた。
「そういえば、そうだ・・・。」
 父親はケイジの携帯電話にメールを打ち始めた。父親の入力する文章が写る小さな画面を、他の面々はじっと見つめる。そして、父親がメールを送信した。
「ケイジは無事だろうな? せめて電話で声を聞かせてくれないか?」
 この問いに対する返事がなかなか返ってこない。父親はいらいらしながらアンテナをはじいた。ジュンイチは緊張感のためかトイレに行った。そして約1分 後、返答のメールが届いた。携帯電話が鈍い音で振動すると、再び父親の周りに人が集まる。
「電話はダメだ。逆探知されては困るからな。( -_-)一応、カメラで撮ったケイジ君の顔を添付しておく。大丈夫だ、金さえくれれば手出しはしない。(\u\)」
 父親が携帯電話を操作して、不安そうな顔をしているケイジの顔を表示した。
「ケイジ・・・。」
 母親と祖母が涙を拭きながら、携帯を見つめた。父親とジュンイチは涙こそ流さなかったが、苦々しい表情をしている。
「母さん、警察に電話をしてくれ。公園に行く時間までは十分時間がある。」
 父親が何かを決心したような顔で言う。
「分かったわ。でも、どこかで監視していないかしら?」
「メールをとにかく送り続ける。それで仮に犯人が近くにいても、窓を見られないようにしてやる。」
 父親は怒りをかみしめて、携帯電話の画面を見た。それから、次々とボタンを押していく。父親の両脇で祖母とジュンイチがじっと携帯電話を見つめている。
「ケイジが無事なのは分かった。ところで、どうしてうちのケイジを誘拐したんだ?」
「とにかく金が欲しかったんだ。(\__\)誘拐するなら誰でもよかった。しかし、俺だってバカではない。( ̄^ ̄)ちゃんと下調べでお前の家の経済状況 も調査してあり、妥当な金を要求してやったよ。」
「その下調べはずいぶんいい加減だな。」
「どういうことだ。俺はちゃんと調べてある。俺を怒らせるとケイジ君を無傷で返せなくなるぞ。凸(▼。▼)y-~~~」
「それはすまない。/(-_-)\ だが、私の家ではどんな手段を使っても二千万円を用意できない。そこで、五百万円に値下げしてくれないか? たのむ。m(_ _)m」
「ちょっと待て。(-_-)> (-_-)>)))」
 その時、母親が近づいてきた。
「父さん、どう? 今から警察の方が来てくれるそうよ。」
「大丈夫だ。今のところメールはとぎれていない。」
 しばらくして警察がやって来た。気を利かせて古くさい原付バイクに乗っているし、服装もスーツ姿でどこからどう見ても一般人である。
「あなた、警察の方が来たわよ。」
「そうか。・・・おっと、メールが来た。」
 出迎えもそこそこに母親が茶の間に引っ込んでしまったので、派遣された警官は玄関を閉め母親の後に続いた。そして、一台の携帯電話に群がる家族の姿をし ばらく呆然と眺めていた。
「よしっ、いいだろう。五百万だ。これ以上の交渉は無理だぞ。"ゞ(`')」
「恩に着る。m(_ _)m ところでケイジがお腹をすかせていないか心配なんだが、おやつをやってくれたか?」
「はっ? 俺は誘拐しているんだ、子供の世話までできるか! )`ε´( まあいい。腹をすかせて泣かれてはこまるから、適当にやっておく。(`ヘ´)」
「すまない。感謝する。(≧∀≦)」

 こんな感じで犯人と父親のメールは続いた。そうしているうちに、別な警官が来て偽物のアタッシュケースを用意してくれた。それから、金の受け渡し場所や 時間を聞いた。他にも携帯電話に特殊な装置を取り付けて電波の発信元を調査した。また、署にいる他のメンバーと電話でやりとりをして、これからの予定を決 めていた。
 家族は携帯電話を持つ父親の周りにかたまり、メールのやりとりをじっと見つめている。誰一人、どのような内容のメールなのかを話さないので、警官もその 中に加わり携帯電話を見つめ始めた。
 メールのやりとりを重ねるごとに、情報伝達に使用している野外設置アンテナの位置が割り出され、ケイジの携帯電話の位置もぼんやりと把握できていく。そ して犯人がいると思われるアパートの一室を特定したという報告が、携帯電話を見つめる警官に届いた。
 そして、8時45分に犯人から一通のメールが来た。
「てめぇ! だましたな!? 凸(`_') Fuck You!!  警察が来ているぞ!」
 父親はにやりと笑い、返答のメールを打った。
「バカめ! ぎゃははははははは _(__)ノ彡☆ばんばん! 携帯電話を使っている時点でお前は居場所を教えているんだぞ。ご愁傷様。 Ω\ζ゜)チーン…」
「くそっ! ケイジ君の命はないぞ!! ∋━━o(`∀´oメ)~→━━こうだ!」
「お前はもう完全に包囲されている。(☆。☆)あ(☆。☆)き(☆。☆)ら(☆。☆)め(☆。☆)ろ(☆。☆)!(☆。☆)」
 そのメールを送った後、返事のメールは来なかった。家族一同緊張した面もちで携帯電話を見つめている。家族の様子を見る警官の額にも汗が伝わった。そし て、静寂を破るがごとくケイジの携帯電話からのメールが届いた。父親があわててメールを開く。
「犯人を拘束し、ヽ(゜▽゜ )-C<(/;◇;)/ ケイジ君を保護しました。」
 茶の間にいる面々から安堵のため息が漏れた。そして徐々にケイジが無事だという実感がわき、ジュンイチがうれしそうにはしゃぎ始めた。それを見て、父親 がメールの返事を送った。
「ありがとうございますっ。o(> w <)〇゛」
 かくして事件は解決した。しかし、事件の被害者も、事件に関係した警官も誘拐事件が起きたという感覚がぼんやりとしか持てなかった。


 これ以上でもこれ以下でもない、こんな作品です。いや、駄作か・・・。
 この作品の真価は、実写版を作ったときに明らかになるでしょう。なぜなら実写版は文章の数倍つまらないものになるはずだからです。
 どんなに時代が変化しても、誘拐犯は脅迫電話をしてもらいたいものです。まあ、テレビでの話ですよ。実際にやって はいけません。



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