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SSの幼生


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隕石
 この町の広場に隕石が落ちた。休日、小さなクレーターがブランコの横にできているのを発見した地域の人間が役場に報告したのだ。ラグビーボール程度なの で放置してもじゃまではないのだが、隕石ということで近くの研究施設へと運ばれた。もう他の星に居住区を作る準備が始まっている時代である。どの県にも宇 宙関連の研究施設はあるのだ。
 しかし、研究施設にとってその隕石は非常にやっかいな存在となった。
「どうだ? なにか分かったか?」
 電子顕微鏡を凝視している研究員に、ファイルを持った別な研究員が話しかける。
「さっぱりです。最高倍率でも粒子の存在が確認できません。」
「うーん・・・。ここの研究所にある顕微鏡と、あの中宇研の顕微鏡と解像度には若干の違いがあるが・・・あっちへ送って期待できる結果が届くであろう か?」
「どうでしょうねぇ・・・。倍率といってもこの顕微鏡の1.12倍の解像度を持つだけです。過度な期待はしないほうがいいでしょうね。」
「・・・確かに。」
 ファイルを持った研究員がちょっと考えるそぶりを見せた。
 そもそもの発端はこの隕石の構成要素を調べようとしたときのことであった。ゴツゴツした隕石の一部を研究員が削り落とそうとしたが、いっこうに削れな かった。そこで、合金製の非常に硬いハンマーで砕こうとしたがハンマーが変形してしまう始末。ならば重機で粉砕しようという案も出たが、そこまでやるのは バカバカしいので、塊のまま電子顕微鏡で調べることにした。それが今の状況である。普通は隕石を丸ごと電子顕微鏡で見るなどということはしないのだが、削 り取れないのだから仕方がない。
「研究というのはわずかでも希望があれば続行すべきものだ。明日、送ってもらうように所長に頼んでみるよ。」
「それで正体が分かるといいのですがねぇ・・・。」

 翌日、その隕石は中央宇宙科学研究所(略称:中宇研)というところに送られた。この国の宇宙研究で最高の技術者が集まり、最高の設備の用意された研究所 である。
 届いたその日に、隕石は電子顕微鏡にかけられた。しかしこの顕微鏡でも粒子の存在が確認できなかった。中宇研の研究員たちは、他にも様々な方法で構成要 素を調べる努力をした。しかしどのような手段を使っても一向に分からない。そして最後に残ったのが光スペクトルを調べ、近似的に構成要素を調べる方法で あった。ところが、そのためにはまず隕石を可能な限り薄く削り取らなければならないのだ。
 事前に”ものすごく硬い”という情報が入っていたので、中宇研のメンバーは潤沢な資金にものをいわせ大手重機製作会社から最新式の廃棄物処理装置を購入 した。この装置の目玉は高純度の人工ダイヤモンドを使用したことで生み出された強力な粉砕力である。建築用の鉄筋ですらあっという間に鉄くずになるという のがうたい文句の代物であった。しかし、結果は合金ハンマーとたいして変わらなかった。粉砕装置のゴミ投入口から投げ込まれた隕石は装置内部をボロボロに しただけで、本体の方は無傷のまま出だった。
「うーん、困ったな。こういう物質的な方法が無理だとしたら科学的に攻めるしかないでしょう。」
 出てきた隕石をパチパチ叩きながら、研究員が言う。
「そうなると、放射線で?」
「もちろん。」
 たいていの物質は放射線を当てればもろくなる。放射線を使う前に、加熱したり冷却したりという初歩的な方法をとるべきという案があったが、国最高の研究 所のプライドがあるのだろうか。とにかく金のかかる放射線使用を無理矢理決定してしまった。
「それでは、これから約1分間放射線を照射する。発射のカウントダウン開始。」
「カウントダウン開始。3・・・2・・・1・・・、発射。」
 1分後、研究員が隕石を調べたがどこにも変化がなかった。翌日は照射時間が5分になり、また次の日は10分、そしてまた次の日は20分・・・。そんな具 合で照射時間を延ばし結局12時間以上照射してみたが全く変化が見あたらない。
「あーあ。これぞまさに未知の物体Xだな。」
 何をしても隕石の正体が分からないので、研究員からこんな言葉が出てきてしまった。もう考えられるべき手段は全て使い尽くしてしまい、やることがないの だ。そこで外部には正体が分かるまで研究し続けると公表しておきながら、中宇研内部では人類が新たな解析技術を見つけるまで隕石を保管することになってし まった。中宇研は巨大な施設なので常に複数の研究を行っている。今まで隕石の研究をしていた面々は別の研究へと配属され、しばらくは何事もなくすぎていっ た。
 それからしばらくして太陽系に巨大な星の集団が接近しているという報告が国の天文台から届いた。あと数ヶ月で折り返し地点という、太陽系にかなり接近し たときに発見したため、巨大な星の集団の全体像は撮影できなかった。おそらくあと半年間は全体像の撮影はできそうにない。人類史上、これほど巨大な星の集 団はまだ確認されておらず、中宇研のメンバーも興味を持っていた。
 そんなある日、隕石が研究所の屋根を突き破り上空へ消えていってしまった。夜中、保管室で異常振動を感知した警報ベルが鳴り、警備員が駆けつけた。保管 室の中に入ってみると、隕石がなくなっており天井にできた穴を確認したらしい。なぜ上空に消えたのが分かるかといえば、天井にできた穴と、盗難防止用に隕 石に貼り付けた小型無線機の電波が宇宙から届くからである。隕石は日に日に太陽系を離れ、例の星の集団の方へ向かっているらしい。星の集団は現在太陽系最 果ての惑星となっていた海王星付近を通過中で、数週間後に太陽系から遠ざかる。中宇研のメンバーは、飛んでいってしまった隕石などは全く気にせず、星の集 団の方ばかりに気が向いていた。ひどいことに科学で解明できないものが消えたことを喜んでいる者もいた。
 星の集団は徐々に遠ざかり、レンズに映る巨大なその姿も小さくなっていった。そしてついに星の集団の”集団として”の写真を撮ることに成功した。その全 体写真は、化学の教科書に載っている単一原子の想像図とそっくりだったのだ。
 中宇研の面々は初めて隕石の正体を知った。いや、知った”はず”であった。あの隕石はどの原子を構成する粒子だったのか、どの宇宙のものだったのか、そ して人類の想像する原子像は正しいのか否か・・・。これらの答えは全てはあの隕石にかかっていたのかもしれない。しかし、調査記録は使い物にならないし、 調査した研究員の記憶も時の流れには勝てず、答えを知るには科学の発展を待つしかない。真実の一端を見せびらかす巨大原子はゆっくりと宇宙の彼方へと消え ていった。そう、今の人類には手の届かない、とてもとても遠くに・・・。


 「未知の物質X」というSF映画があったようななかったような・・・。
 果たして本当の原子とは人類が想像しているもので正しいのかどうか・・・。実際に確認していないので何ともい えないんですよねぇ・・・。



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