目次 > SSの幼生 の目次 > 腐らせ光線
SSの幼生


| << 前の作品へ | SSの幼生 の目次へ | 次の作品へ >> |



腐らせ光線
 自称研究員のウク氏の家へユセ氏は招かれた。
「ウク君、すばらしい発明とは何かな?」
 ウク氏は、自称が付く程度の発明家のために、今までくだらないものばかりを発明してきた。そして、発明するたびにユセ氏を招き、見せびらかすのだ。
「ふふふふふ。そう嫌そうな顔をしないでくれ。まあワインでも飲みながらゆっくり説明するさ。」
 ウク氏はそういって、テーブルにあったワインの瓶を傾けた。ヌボーノという銘柄で、安いわりに味がよいためにユセ氏もよく買っている。
「おいおい、ヌボーノは白ワインのはずだぞ? 何で赤いんだ!!」
「まあまあ毒じゃないんだ。それに、こんなワインを発明しただけで君を呼びはしないさ。」
 ユセ氏がグラスに手をかける前に、ウク氏は乾杯の仕草をしてグラスを空にした。
「ふぅっ。君も飲めよ。」
 仕方ないのでユセ氏もワインを飲んだ。
「ん? 珍しい味だね。」
「珍しいだろう? 隣のブドウ畑で出荷できない小粒のやつをワインにしたんだ。」
 ウク氏はにこやかに言う。彼は立ち上がり、部屋にあった冷蔵庫へ近づいた。
「はぁ?」
「はぁ・・・じゃないだろう。他にもいとこの畑で育てている大豆から、ニッポンのナットウも作ったぞ。」
「ナットウは嫌いだ。」
「それに、うちの乳牛からチーズだって・・・ほらっ!」
「あのねぇ。君の家の乳製品は僕も買っているよ。もっと買ってくれと言いたいがために、呼びつけたのか?」
 ユセ氏のぼやきにウク氏はため息をついた。
「ワイン、ナットウ、そしてチーズ・・・。この関連性が分からないかなぁ?」
「商品勧誘の次はクイズかい? 簡単さ、発酵食品だろう?」
 ウク氏はパチンと指を鳴らした。
「その通り! ちょっとツマミにチーズもかじれよ。このワインにはよく合うんだ。」
 ユセ氏は指示通りチーズを食べた。
「確かにあうねぇ・・・。ところでこのワイン、アルコールが強いのかな? もう酔ってしまったようだ。このチーズの味、君の家のものではない気がする よ。」
「そのチーズに使った牛乳、昨日のものさ。だからまだ牛乳らしさが強いんだよ。」
「はぁ? 商品勧誘、クイズ、そして昨日の牛乳でできたチーズと君は奇妙なことばかり言う。いったい何が目的だい?」
 ウク氏は棚にあった大きな水鉄砲のような道具を取り出した。
「ローマ同様、チーズも一日にして成らず。それが”かつて”の常識だった。だが、僕の発明でチーズは一日でできるようになるんだよ。」
 ユセ氏は目をぱちくりさせている。ウク氏はそんなユセ氏のことはいっさい気にせず、水鉄砲みたいな道具の説明を始める。
「この銃口からは特殊なエネルギーが出て、それに触れたものは通常の10倍以上の速度で腐っていくんだよ。名付けて”腐らせ光線”さ。」
 ウク氏はそう言って、花瓶に挿してある花に向けて銃口を向けた。すると花は徐々にしおれ始め、あっという間に枯れ草へと変わってしまった。
「普通はこんなふうに枯れちゃうんだけど、酵母を用意しておくと発酵が高速に行われるんだ。」
 ユセ氏はその光景に驚きながら、ワインをもう一口飲んだ。
「・・・、おいおいおい。ずいぶんと物騒な道具だな。間違って人間に当てたら一瞬にして年寄りになってしまうよ。ましてや、年寄りに当てたら死んじゃう ぞ。」
「その辺はご心配なく。うちの猫や牛に光線を当てたけれど何も起きなかったよ。どうやら、動物には効果がないらしいね。」
 ウク氏はそう言って部屋を出た。しばらくごとごとと音を立てていたが、やがて飼い猫を連れて戻ってきた。
「どうだ? うちの猫はミイラにならないぞ。」
 ウク氏は猫に光線を当てたが、猫はその場で丸くなっているだけで何の変化も見うけられない。ユセ氏も確認のために光線を当てたが、やはり変化がない。
「ところで、どうしてこんなものを考えついたんだ?」
「ここだけの話だが、ある日ふっと大学の図書館にあった文献を思い出したんだ。まあ、この腐らせ光線の関する仮説を書いてあるやつさ。それでちょっと図書 館へ行ってその原理っていうか仮説を調べた。まあ、はじめは使い物にならなかったけど色々と試行錯誤してこいつを作ったのさ。で、枯れ草を作ってもしょう がないから、試しにチーズの素に光線を当てたって訳よ。でもこれは秘密だよ。文献を書いた人間が権利を主張してきたら困るからな。まあすごい古いものだか ら、著者は死んでいるかもしれないが。」
「ちっ、その文献を僕が書いておけばよかった。」
 酒がまわりユセ氏の舌もなめらかになっており、冗談がぽろりと出た。そして、彼はさらに付け加える。
「動物に害もないし、うまいワインや珍しい味のチーズも次々作れるとはいいことじゃないか。どうだい? 来年はワインも出荷しろよ。この味で安ければ買っ てもいいぞ。」
「じゃあ、一本もっていけよ。もう近所に配って評判を見ているんだ。」
「はっはっはっ。君は行動が早い。ありがたくちょうだいするよ。」
 ユセ氏はボトルを抱えて上機嫌で帰っていった。

「へえ・・・。ウク君はそんなものを作ったんだ。」
「そうなんだよ。君も彼の家に行ってワインをもらってこいよ。うまいぞ。」
 その夜、ユセ氏は友人のタハーン氏のパーティーに招かれた。タハーン氏は政治の世界の人間で、時々支持者を集めてパーティーを開いている。
「今度、頼んでみようかな。」
「大学時代の友達だ。それに彼だって君のことを支持している。快くワインをくれるはずだ。むろん、”友達”としてね。」
 ユセ氏がこう言ったが、タハーン氏はしばらく何かを考えており、返事をしない。
「おいおい、言ったとおり動物には効果がないから裏組織の武器としては使えないぞ。」
 たまらずユセ氏が言うと、タハーン氏が笑い出した。
「ふふっ、何を言っているんだ。僕はそんな汚いところとは手をつないでいないよ。健全な市民による社会を築くために努めているじゃないか。」
「冗談だよ。冗談。」
「まったく、変な噂が広まったらどうするんだ。」
 タハーン氏は声高らかに笑い出した。

 パーティーが終わった次の日、タハーン氏は卒業した大学へ行った。
「タハーンさん、どうしましたか?」
「学生に政治を説くつもりはありません。大学は完全に独立した存在ですからね。」
「それならばいいのですが・・・。」
「図書館を利用したいのですが。ちょっと調べものを。」
「いいですよ。あなたが学生に変な干渉をするとは思いませんが、大学の規則で毎度毎度注意しなければならないのですよ。」
 警備員は謝りながら入門表を差し出した。タハーン氏はサインをしながら言う。
「いいですよ。僕が学生の時もそれが普通でしたから。」
「大学を卒業しても研究熱心なタハーン氏は政治の世界でも理想の人でしょうな。」
「いずれは理想の人として国全体に認めてもらいたいですな。」
 タハーン氏は笑いながら図書館へ向かっていく。図書館に着いた彼は、経済や法律の本に紛れて一冊の生物学の本を手に取った。彼はその生物学の本をしばら く読みメモをとった後、何事もなかったかのように経済や法律の本を調べ始めた。
 自宅に戻ったタハーン氏は、暗い顔で電話をかけていた。つねにせわしなく周囲に目を配り、声は小さく、早い口調だった。窓を閉め切り、秘書も追い出して いたので誰も見てはいないが、仮に誰かが見ていたとしたら陰謀めいたものを感じるだろう。

 次の年、タハーン氏は州の議員になった。選挙ではいつも当選していたが今回は特別だった。今まで州の議席の過半数を持っていた党派の主力メンバーから次 々と汚職事件が吹き出て、野党第一党のタハーン氏の所属する党の支持率が急上昇した。そしてタハーン氏の党は議席の4分の3以上を支配する与党へと成長し たのだ。
「おめでとう、タハーン君!」
 祝賀パーティーに出席したウク氏とユセ氏が彼に声をかけた。
「ありがとう。君たちの一票のおかげだね。」
「いいや、市民のための政治を求める君の清冽さに惹かれただけさ。それに、腐らせ光線が盗まれたときに資金援助してくれたお礼も兼ねて、ね。」
 そういってウク氏は頭を下げた。
「何を言うんだい? 友達が困ったときには助け合うのが当然だろう。」
「タハーン君、議員になったら急に懐が広くなったんじゃないか?」
 すかさずユセ氏が横槍を入れる。
「僕もそう思うよ!!」
 タハーン氏の言葉で、笑いがはじけた。しばらく笑った後、ユセ氏が小さな声で言った。
「ところで、どうしてあの党からは次々と汚職が吹き出したんだろうね?」
「どうしてだろうね。でも、権力を持つと急に周りからちやほやされるだろう。そうすると自分は何をやってもいい気がして精神が腐っていくんじゃないかな?  僕も議員になったけれど、精神が腐らないようにつとめるよ。」
「精神が腐らないようにつとめる・・・さすがあんたは政界の鏡だ!!」
 突然、酔っぱらった大学の警備員がタハーン氏の方に手を回してきた。パーティーは終始和やかな雰囲気に包まれていた。パーティーが終わると人々はにこや かに笑いながら自宅へと戻っていった。タハーン氏もうれしそうに自室のベッドへ潜った。明日からは己の精神の腐敗を防ぐ努力をせねばならないから・・・


 真実は闇の中・・・。どのように判断するかはあなた次第。
 てか、もっとまともな話を作りたかったです。



| << 前の作品へ | SSの幼生 の目次へ | 次の作品へ >> |


SSの幼生

| 目次へ戻る | ページの上部へ |