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SSの幼生


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絶交
 夕暮れの帰り道、子供が二人ケンカをしている。
「お前なんか・・・お前なんか絶交だっ!!」
 一人の少年が涙声でこう叫び走っていってしまった。もう一人の少年も彼を追うことはせず、背中を向けて自分の家へ歩いていった。家へ向けて歩いている途 中で、彼の目に涙があふれてきた。後悔と、怒りが混ざり合った感情で、彼は涙を止めることができなかった。少年は長袖で涙をぬぐい、家に駆け込んだ。
「ケータ!? どうしたの、泣いているじゃない。」
「・・・。」
 玄関を開けたら、たまたま少年の母親がそこで掃除をしていた。少年は家の住人に会う前に、自室に飛び込み心を落ち着けるつもりだったが予定外の出来事が 起きたようである。
「どうしたの? 怒らないから言ってご覧なさい。」
「・・・。」
 ケータと呼ばれた少年は何も言わない。彼は黙ってうつむいたまま立ちつくしている。玄関にうっすらと積もった砂が、彼の涙で塊となっていく。
「いいわ。後でお父さんに相談するから。」
 ケータの母親はそれ以上の追求は無理と判断し、どこかへ行ってしまった。ケータは靴を整え、自室へ飛び込んだ。

「ケータ、ご飯よ。」
 母親の声がする。ケータは、食卓の席で父親が追求してくることは分かっていた。しかし、ケンカをしたことの後悔が空腹感を増幅しどうしようもなかった。 ケータはしぶしぶ部屋から出て、料理が並べられている食卓に向かっていった。
「ケータ、どうしたんだ? どうして泣いていたんだ? 怒らないから言ってみなさい。」
 ケータの父親が慈愛に満ちた声で言った。しかし、ケータはその声を無視しして食事をとっている。
「ケータ、言ってご覧なさい。何か言ってくれなければ、父さんも母さんも困ってしまうよ。」
「・・・。」
 ケータは食事を食べ終わってしまった。黙ってもくもくと食べ続けたので、一番先に食べ終わって当然である。ケータは部屋へ戻ろうとしたが、父親の鋭い視 線のために立ち上がることができなかった。
「・・・ハヤト君とケンカしたんだ。」
 もう言うしかないとケータは感じ、ぽつぽつと語り始めた。
「原因は何だ?」
「みんなと公園で遊んでいるとき、ハヤト君にボールを当てちゃったんだ。そしたらハヤト君が突然帰っていくから、僕は謝ろうとして・・・。」
「それで謝ったのか?」
 父親の声が強くなる。
「ううん。謝ろうとして声をかけたんだけど、全然返事をしてくれなくて。」
 ケータの声がすすり泣きへと代わり始めた。。
「それで、あの十字路で僕と分かれるときに、ぜ・・・、せっこうだって言って走って行っちゃったの。」
 とうとうケータはわんわんと泣き出してしまった。その光景を見て青くなった母親が、ケータを落ち着かせようとベッドへ連れて行った。
「せっこう・・・、か。」
 父親は一人きりになった食卓で、そうつぶやいてからみそ汁をすすった。
 しばらくして母親が戻ってきた。
「あなた、ケータの話本当かしら?」
「仮に真実だとすると大変なことだ。早めに手を打たないとね。」
 そういって父親は残りの食事を胃に流し込み、自室へ戻っていった。父親は何かを思いだしたかのように、携帯電話で話していた。母親も食事を済ませ、後か たづけをした。それから、夜だというのに片づけを始め、色々なものを地下へ運んでいる。
 次の日は、祝日だった。ケータの家に、緊張した顔のハヤトがやってきた。
「ケータ君いますかー?」
 ドアのチャイムを押しながらドアの向こうに声をかけた。しかし家からは何も返事がない。だがその時、家の中ではケータの父が、ケータを玄関を向かわせな いようにつかんでいた。その物音でハヤトはケータが玄関の向こうにいると勘違いしたらしい。
「ケータ君、そこにいるの? 昨日はごめんね。僕、ボールを当てられてすごい痛かったんだけど、ケータ君がすぐに謝ってくれなくて・・・。」
 ハヤトの声に鼻をすする音が混じりだした。
「それで、あの十字路で絶交だって家に帰ったことをお母さんとお父さんに話して・・・、それでね・・・。」
 ハヤトの目から涙が流れ、鼻水が唇まで伝わってきた。彼は涙をぬぐい、鼻水をふき取り始めしばらくは話すことができなかった。
「聞いたか? ハヤト君は、彼の両親にも話したらしいぞ!」
「ええ、これは大変なことよ。もう気づいていたのね。」
 ハヤトは休日というのに暗い顔の両親に疑問を感じていた。そして、今その顔でハヤトが玄関へ行くのを阻止しているので、おそるおそる聞いてみた。
「ねえ、父さん。何が大変なの?」
「ケータ、ハヤト君はね私たちの正体を知っているんだよ。私たちが地球人でないことを・・・。」
「どうして?」
「昨日ハヤト君が言っただろう? 斥候だと。斥候というのはね、スパイのこと。つまり地球の調査をしている私たちのことだよ。」
「違うよ、父さん。ハヤト君は・・・。」
 ケータがそこまで言ったときに、父親の携帯電話に電子メールが届いた。文面は彼らにしか読めない文章で、「地球の総攻撃に入る。至急、大気圏外へ移動す るべし」と書いてあった。
 父親はハヤトの元へ走っていこうとするケータを抱きかかえ、地下室の宇宙船に乗った。ケータの家が揺れ、小振りな宇宙船が上空へと向かっていく。それを 見上げながらハヤトは叫んだ。
「ケータ君、絶交だなんて言ってごめんね。仲直りしてまた仲良く遊ぼうよ。ケータ君の生まれた星に帰っちゃいやだよぉ!! 僕はケータ君が宇宙人だと教え てくれたときは驚いたけれど、宇宙人だからって友達は友達じゃないかっ!!」
 大気圏から離れる間にケータから真実を知った両親は、青ざめた目で地球を見つめていた。スパイは敵地にどんな証拠でも残してはならないのだ。何が原因で あれ、正体がばれたのは事実である。やがて仲間の宇宙船が現れ、青い地球を火の海へと変えていった。


 偉大な作家、アイザック・アシモフの「高価なエラー」のような作品が作りたかっ たのですが、自分の実力のなさを思い知らされるばかり・・・。



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