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SSの幼生


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資本主義
第一部 あの日
「理事長! ついにA国が降伏しました。」
「そうか、それはよかった!!」
 この日、ついに資本主義と社会主義との戦いが終わった。国民が自由に行動でき、力さえあればどこまでも高い地位につける・・・。こんなうたい文句と資本 主義思想に心酔した国が小さな連合を作り、それが一気に広まった。そして、時が経つにつれ資本主義が世界的な考えとなった。考えが知られて行くに連れ、資 本主義連合に参加する国も増えていった。いつの頃からだっただろうか、社会主義も対抗し社会主義連合を作り組織を巨大化しさせていた。
 気づけば資本主義と社会主義は互いに憎みあい、小さなことでもすぐに戦争になるようになった。とうとう数年前に、どちらからも宣戦布告がなされ、資本主 義対社会主義の戦争が始まったのだ。その戦争には世界中の国が賛同し、人々は常に相手を憎み続けていた。
 しかし、それも今日で終わりである。今日降伏したA国は最後の社会主義国家なのだ。そして一時的に資本主義連合から派遣した人物にA国の政権を担当さ せ、A国に資本主義思想を浸透させる。資本主義連合が作った資本主義国家化マニュアルは非常に強力で約二年で国民の心を変えてしまう。学校教育では、連合 から派遣した職員が資本主義の良さと社会主義の劣悪さを強烈に擦り込む。これにより幼い子供たちは確実に資本主義国家の国民となる。また、当時の支配者た ちに囚人服を着せ国民に謝罪の報道をさせる。これにより一部の大人の心を動かす。他にも特殊な経済特例により支配から五年間は確実に爆発的な経済成長が起 こるようにし、労働者にも資本主義のすばらしさを擦り込む。まだまだ色々な方法があるのだが、とにかくあっという間に国民は資本主義にどっぷりと漬かって しまうのだ。
 A国が降伏したことで世界中が喜んだ。もうこの星には敵はいない。世界は資本主義により成り立つのだ。そして、これからは真の平和が訪れるのだと。


第二部 あれから
 人々は必死で働いた。皆、支配者階級へと上り詰めたい一心で必死に努力した。むろん社会が成熟するにつれ、人権を尊重するようになった。そのために、ど の身分でも生活に困るようなことことはないし、身分が低いために過酷な労働を強いられるということもなくなった。しかし人の欲とは限りなく、常に人々はよ りよい地位を目指し働いていた。
 仕事に疲れると、人々はあのおぞましい戦争を思い出した。そして自らが作り上げた平和を再確認し、再び仕事に打ち込む。
「次の連合理事長は、ワイ氏とアール氏の戦いだってさ。」
「どちらが勝つのだろうな? この選挙ばかりは資本だけではどうしようもないからなぁ・・・。」
 世界で最も高い地位にあるのは、連合の理事長であった。しかし、それは形だけであり実際に地位を決めるのはその人物の財力である。そしてこの世界には理 事長以上に資本を持つ人間はごまんといて、理事長の選挙など人々にとってはちょっとした話のネタ程度であった。
「いやいや、裏で手を回すときには資本がいるだろう?」
 理事長の選挙だけにとどまらず、選挙の話題ではたいていこの言葉が落ちになる。どうあがいても資本主義は資本主義という考えが人々には根付いていた。そ う、この社会では何につけても金がいるのだ。


第三部 そして
 ある日、異星人がこの星にやってきた。この頃には科学も進歩し色々な組織が宇宙船を打ち上げていた。最近、隣の惑星へ調査団が到着したというニュースが 世界的に放送され、人々はいやおうなしに宇宙への興味を持ち始めていた。そんな状況だったので異星人の出現は人々を強烈な興奮の渦に巻き込んだ。
 異星人は到着すると、スーツを身にまとい外に出てきた。そして、緊張した顔で宇宙船を取り囲む兵士たちに向かい、拡声器で呼びかけた。
「私たちは宇宙の知的生命体のいる星に資本主義を広めるためにやってきました。私たちはあなた方と争うつもりはありません。」
 その言葉を嘘ではないと判断した資本主義連合の上層部は、異星人の代表を連合理事長の部屋へまねき入れた。
「私たちは宇宙の知的生命体のいる星に資本主義を広めるためやってきました。」
 連合の理事長の前で、異星人が言った。
「それはそれはご苦労なことです。実際に様子を見れば分かりますが、この星は資本主義で動いております。残念ながら、あなた方が何かを教える必要ないで しょう。とはいえ、・・・まあ、旅の疲れをゆっくりと取ってください。」
 理事長がにこやかに答えると、異星人は小首を傾げた。この星の住人と比べ、異星人は指の数が一本多いだけであり、理事長は動作の表す意味も同じだと考え た。
「異星の方、どうかいたしましたか?」
 心配そうに聞く理事長に、異星人はきりりとした視線を放った。
「あなたは嘘をおっしゃりました。私たちはあなた方に発見されぬように、この星の歴で3年間にわたり調査を行っておりました。」
「そ、それならば資本主義が広まっていることをよくご存じのはず。」
「いいえ、この国はB社という組織を頂点に全住人に指示を与え、住人はその命令通りの仕事をしているだけです。これは、B社支配の社会主義と何ら変わりが ありません!」
 理事長はハッとした。確かに、この星でもっとも資本のあるのはB社である。
「これから約2年間、私たちが資本主義のなんたるかを教えます。まずは、支配の元凶B社を消すことから始めなくては。あなたもB社の支配に捕らわれずに、 自由な経営をしたいでしょう?」
「それは違います! 確かにB社がこの星で最も資本を持っているのは事実です。ですがB社が世界を・・・いやこの星の人々を支配しているわけではございま せん。B社はこの世界で頂点に立ち、B社の指示は子会社へ孫会社へとどんどんと伝わり、最終的には全世界の人々へと伝わっていきます。ですが、人々はB社 から与えられる指示通りの行動だけで日々を送っているのではありません! B社は人々の自由な生活を妨害しない程度の労働を与え、人々はその労働を終える と自由な時間を過ごしています。なぜならこの星では人権を尊重し、社会権を広め、福祉も・・・」
 そこまで言った時、異星人の顔が険しくなった。
「社会権だと!? 与えられだけの労働を淡々とこなして、後は何もしないだと!? そんな星・・・いや社会のどこが資本主義だ!!」
 社会が成熟する前に、技術だけが発達した星からやってきた異星人は宇宙船に戻っていってしまった。次の日には完全武装した大船団がこの星を取り囲んでい るのが、宇宙開発関連施設のレーダーにより明らかになった。その後はあっという間であった。成熟し老いた社会は、まだ血気盛んで活発な若い社会の持つ力に 勝つことはできず、若い主張を甘んじて受け入れることになった。


 作ってから、厳密には資本主義と社会主義が対の関係になっていないことに気づき ました。でも、訂正しようとして共産主義や民主主義などの単語を調べていたら訳が分からなくなり、そのままにしました。



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