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SSの幼生


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染め物
「水平軸制御装置に3ミリのずれがあります。直ちに修理に取りかかります。」
 都市の全てを制御する巨大なコンピュータの画面に文字が表示された。監視員は黙ってその文字を読んだだけで、食べかけのスナック菓子に手を伸ばした。
「カオスレーザー発生器の低温プラズマの注入パイプが劣化しています。これから取り替えますので、数分間、全体の処理に0.03%の遅れが出ます。」
 またこんな文字が出た。
 監視員はコンピューターの構造はちゃんと知っており、どこの異常かは分かっていた。しかし、そのコンピューターはあまりに複雑で巨大であった。そのため に、人間が百人集まり一通りの点検をしようとしても一ヶ月以上かかる。しかも、人間がミスを犯すということを考慮すれば、最低でも二ヶ月半は必要になって しまうのだ。サブマシンを作る予算がまだないために、この都市では常時コンピューターの異常を監視するロボットが導入されている。
「うーん、このコンピューターを導入して十年を越えたせいかガタが多いなぁ・・・。」
 監視ロボットのみのメンテナンスだけで十年保ったというのはこの都市だけである。他の都市は、多くの借金を抱えながらもサブマシンを造り、数年おきに使 用するコンピューターを変えて、その時に徹底的に点検と修理をしている。

 そんな状態が数年続き、前代未聞の二十年が経過した。
「あーあ、後二年でこいつにも相棒ができるっていうわけか。それまで頼むぜ。」
 監視員が新聞を読みながらコンピューターに話しかけた。もちろんコンピューターは答えず、淡々と都市の安全のために処理を続けていた。この都市でもつい に大きな資金を調達できるめどが立ち、サブマシンの購入が決定したのだ。そして、明日からコンピューターの製造が始まるという。なにぶん、巨大なために完 成後も異常がないかチェックをしたり、都市に関する膨大なデータを記録させなければならない。二年間でこれをこなすというのはかなり大変な作業である。
「眠くなったなぁ・・・。ちょっと寝るよ・・・。」
 監視員は近くにある布団に潜った。何か異常が起きても監視ロボットがなおしてくれるので、人間など監視室の掃除以外はやることがない。しかし、例文すら ない”万が一の時”のためにいるのであった。
 ピーッ
 こんな音がして監視員は目を覚ました。この音は研修の時に一度だけ聞いた、コンピューターの異常を知らせる音である。彼は慌てて監視ロボットの活動内容 が表示される画面を見つめた。
 次から次へと修理内容が報告されている。今までとは比べものにならない数ある。加えて普段は三台ずつが交代で活動している監視ロボットが九体総動員であ る。
「おいおい・・・。」
 監視員は心配そうに画面を見つめていたが、やがて奇妙なことに気づいた。監視ロボットたちは全て第四交通標識制御部に集中しているのだ。そして、修理内 容も数カ所を何度も何度も修理している。このことに気づいた監視員は、コンピューター内部へ続く扉を開き、監視ロボットの様子を見に行った。
 コンピューターの中は、いくつもの箱が立ち並んでいる殺風景なものである。見た目は何億というコンピューターが並んでいるようだが、全てが集まって一台 のコンピューターなのである。だからといって、誕生初期の巨大コンピューターとは全く違う仕組みである。
「おっと、こんなに集まって・・・。」
 監視ロボットたちは、ピーピーと音を立てながら数台の箱のパネルをいじっている。画面に表示されているようにずっと同じことをしている。ひたすら部品を 交換し続け、手持ちがなくなると補充しに行き、作業を続けている。
 監視員はしばらくその光景を見つめていたが、コンピューターに異常が見られないためにロボットたちの電源を切った。案の定コンピューターは異常なく働き 続けた。しかし、監視ロボットたちはメンテナンスしても、目の前にある全てのものを異常と認識し、修理を続けるようになってしまった。
 この都市は大慌てで予備費を使い、監視ロボットを交換した。それ以降、コンピューターにもロボットにも異常は見受けられない。そんな平穏なある日、監視 員はある記事を読んでいた。
 ”発狂したマウス達の中に、一匹の正常なマウスを混ぜて数週間生活をさせたところ、正常だったマウスも同じように発狂することを、K大学のロバート博士 が発見し発表した。これは心理学のさらなる発展に結びつくかもしれない”・・・と。


「カオスプラズマ」って何・・・?
 さぁ・・・? 乱数発生装置の間違えじゃない?



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