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  | 呪い 闇世界を支配したという人物がいた。彼には兄弟もなく、結婚もしなかった。ひたすら自分の地位向上を目指し、ついにその栄光を勝ち取ったのだ。彼は死ぬ
前に莫大な財産を黄金に変えてどこかに隠したという話があった。
 「おい、いいもの見つけたぞ。」
 考古学者のミノ氏のもとへ同僚のチト氏が現れた。
 「なんだい? いいものって?」
 「これだよ、これ。」
 チト氏が興奮して取り出した地図には一カ所、Xの印とある人物のサインが書いてあった。
 「これは、あの男のサインだな。と、するとこのX印は彼が隠した黄金のありか?」
 「そうだよ、そうだよ。これを掘り出せば一生遊んで暮らせるぞ。」
 チト氏よりも十歳ほど年上のミノ氏はため息をついて言った。
 「チト君、この男の財宝を探すものは呪いで死ぬという噂は有名だろう。呪いでなくても、行ったきり帰ってこないやつも数多くいる。私は呪いなんて信じるつ
もりはない。しかしそれ以上に、この男が隠した財宝の地図は過去にごまんと出ているんだ。いきなり信じろと言うのも無理があるぞ。」
 「ミノ君、僕の筆跡鑑定の才能を知っているだろう? これは間違いなく彼のものさ。どうだい? 今度の休日、行こうじゃないか。考古学研究の一環として
さ。」
 「はぁ・・・。今度の休日は全く用事がないなどと、君に口にしたのが災いしたかな。」
 
 二人はミノ氏の研究所近くの森の中へ入った。地図によるとこの近くである。
 「GPSからしてここだ。おや、地下に続く穴があるぞ。」
 チト氏がマンホールを動かすと、はしごが地下へ通じている。二人は手足を滑らせないように慎重に降りた。彼らの姿が小さくなった頃、マンホールが自然と
動き出入り口をふさいだ。
 地下には暗く広い空間が広がっていた。ミノ氏が偶然、スイッチを見つけそれを押すと明かりがともった。
 「ぎゃぁっ!!」
 半分白骨化している人骨が転々と転がっている。ミノ氏はそれを見て悲鳴を上げているだけだったが、チト氏は死体に近寄り慎重に調べた。そして、手持ちの
ガスマスクを渡した。
 「ウイルスさ。ほら、この試験紙の色が変化している。二分吸い続けたら動けなくなる強力なやつだ。」
 二人はさらに奥へと進んだ。しばらくすると、目の前にエレベーターが見えた。今度はミノ氏がその周囲を慎重に調べ、パネルをはがし配線を変えた。
 「この装置をだませるのは一度限り。帰りはまた配線を変えにゃならん。」
 「変えないとどうなる?」
 「頭に風穴が開くよ。ウイルスと防犯装置が呪いというわけか。」
 二人はエレベーターでさらに下へ移動した。すると、目の前には多くの麻袋が置かれていた。チト氏が赤外線スコープで中を調べ、ナイフで袋を裂いた。中か
らは大量の金貨が出てきた。
 「まあ、待て。」
 小躍りするチト氏をなだめ、ミノ氏は金貨を少し削った。純金らしく柔らかかったが、ミノ氏が用意した試薬に入れるとたちまち変色した。
 「よくできた合金だよ。これだけ売れば、かなりの額だが黄金じゃない。」
 「ちっ、じゃあこの地図は偽物?」
 「そうだろうな。だが偽金貨はレアメタルを多く含んでいるから、別目的でためこんでいるとも考えられるぞ。」
 そう言って、ミノ氏は帰りのエレベーターの配線をいじろうとした。しかし、何かに気づいたのか小型コンピューターをエレベーターの端末に接続した。
 「驚いたよ。見ろ!」
 エレベーターの扉が開くと、そこにはエレベーターはなかった。代わりに奥へと続く通路が見えている。二人は無言のまま奥へと進んでいった。すると、一枚
の張り紙と扉が見えた。
 「何々。”知力に富んだ者よ、よくここまで来た。君たちの想像どおり、奥には黄金がある。しかし、持ち帰ることができるかな?”だってさ。」
 二人は重厚そうな扉を慎重に開けた。見た目は大銀行の金庫のようであるが、簡単に開いた。しかし、困ったことに構造上開けっ放しにできない。そこで念の
ためにチト氏一人で中に入り、無線でやりとりすることとなった。
 「どうだ?」
 「あったよ。あった。中は広い部屋になっていて、金が象ほどある巨大な塊で保管されている。どうやら僕らの前に入った人間はいないみたいだ。」
 「念のため、僕の渡した試薬で調べてくれよ。」
 「ちょっと待ってくれ。・・・おい、純金だよ、間違いない。でも、どうやって運び出そうか・・・?」
 「ちびちびと交代で切り出すしかあるまい。」
 「あぁ。じゃぁ、ちょっと切り出すから待っていてくれ・・・。」
 しばらくは、チト氏の力を込める声が聞こえたが、やがて雑音が混じり始めた。そして、無線機からは何も聞こえなくなった。残されたミノ氏はしばらく呼び
かけたりしてみたが、覚悟を決めて中に入ることにした。
 チト氏の言っていたとおり、扉の向こうには黄金の塊がごろごろと置かれている。
 「チト君?」
 どこを探してもチト氏の姿が見あたらない。彼のバックも、黄金を切り出すために使っていたノコギリ状のナイフも見あたらないのだ。
 (これがもしかして”呪い”なのか?)
 急に気味が悪くなったミノ氏は外へ出ようと扉に手をかけた。その時、水たまりを踏んだような音がしたので、彼は下を見た。そこには黄金に輝く水たまりが
広がっていた。ミノ氏が疑問に思い周囲を見渡したら、黄金がバターのように液体になり、あっという間に蒸発するのが見えた。しばらくすると床にぽつぽつと
黄金の水滴が現れ、徐々に巨大な固体へと変化していった。そして部屋にはわずかな不純物の混じった金塊だけが残った。
 
 
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            | 黄金を気体にして容器に密封すると、取り出すときに勇気が必要でしょうね。冷や
さずに容器を開くと、金の熱風が吹き出すのですから。 |  |