支配者
教壇に先生が立っている。ここは、天界にある特別な天使の学校。ここで、さまざまな意味で優れた人間を地上界へ排出している。
「君たち、君たちは支配者になりたいかね?」
先生が生徒たちにたずねた。うなずくものが半分、首をふるものが半分。
「支配者になりたい生徒諸君、君たちは考えを改めなければならないよ。」
先生が苦笑いしながら言う。その声に対し、一人の天使が手を挙げた。彼は、先生の問いにイエスと答えた人間である。
「せんせーい、僕たちは地上で人間たちを率いていくために勉強しているんですよね?」
「そうだよ。」
「じゃぁ、なんで支配者になってはいけないのですか?」
先生は生徒の顔と手持ちの名簿を見比べた。
「君は地上史の勉強がまだだったね。それならば仕方がないか・・・。」
「どういうことですか?」
「まぁ、地上史で紹介されている支配者の人生をかいつまんで話せば分かってくれると思うのだが・・・。」
先生はそこまで言うと、質問をしている生徒に席に着くように命じた。生徒が座るのを見届けてから、先生は水を一口飲んだ。
「もう勉強している生徒諸君はつまらない話だろうが、どうか復習と思い我慢してくれ!
君たちが地上に降りたとしても、はじめは無名の人間だ。しかしその状況にくじけずに周囲の信頼を集め、地位を勝ち取り大きくなっていかなければならな
い。我々は君たちが相互干渉しないようにつとめているが、地上にいる人間たちは君たちの行動を妨害しようとすることが多々あるであろう。
地上史に記された支配者の姿を思い出してごらん。何度となく妨害され、汗と泥まみれになって頂点に立った時、その人間は誰を信じるかね? 時には側近と
思っていた人間が裏切ることもあっただろう、全く面識のない人間が攻撃してきたかも知れない。そんな予測不能な状況が数十年続いた人間の精神状況はまさに
ランプの炎。見た目は神々しく燃えているが、ガラスが割れ風が入ったり、燃料が切れたりと常に危険と隣り合わせである。そして、炎には実体がないし常に揺
れ動いているのだ。分かるかい? もう誰も信じられず、誰にも信じられていない気分になってしまうのだ。
君たちは確かに人間を率いていってもらわなければならないが、なにもそこまで苦労を背負い込むことはない。君たちは地上で鈍感な人間を見つけ、その人を
立てる形で人々を率いていってもらいたいのだ。確かに苦労はするが、程良く鈍感な人間を立てれば君は疑われることないだろう。それに既に学習済みの行動学
により、周囲に怪しまれずに行動することができる。
さぁ、君たちは支配者になってはいけない。君たちは支配者を立てる人間になるのだ!」
それを聞いていた天使たちの中には、拍手をするものが何人かいた。
数年後、その教室にいた天使たちは卒業し、地上界へ次々と降りていく。教室の窓から、授業をしていた先生は、その天使たちの姿を見て神の加護を祈った。
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一度くらい支配者を経験したい管理人・・・。あ、このHPを支配しているのかも
しれませんね。
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