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SSの幼生


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散歩
 アール氏はまじめな会社員だった。彼はまじめに会社に勤め、並の人間よりも出世し、何事もなく定年で退職した。アール氏婦人もアール氏と同じくまじめな 人間で周囲からの評判もよかった。
 アール氏は定年になると、家でゴロゴロして婦人を困らせることはなかった。彼は退職の数年前から様々なところから情報を集め始め、彼なりの趣味を発見し たのだ。朝起きて朝食をとり、新聞を読み、昼食まで趣味に没頭する。食後は昼寝をするか、また趣味に没頭をしている。かつて仕事だった時間を全て趣味にあ てているのだ。そして夕食、その後婦人と二人きりでテレビを見ながら笑談をしている。非常に円満な家庭だった。
 しかし、アール氏には唯一の悩みがあった。それはアール氏の家で飼っている犬のことだった。その犬は婦人との散歩の時と、アール氏との散歩の時とでは態 度が全く違うのだ。アール氏の方がはるかに悪く、アール氏が散歩に連れて行こうとするのに気づくと、暴れ犬小屋にしがみつき出かけようとしない。散歩に出 かけている時間もほぼ同じだし、アール氏にも婦人にもちゃんとなついている。どんなに考えても理由が分からないので、できる限り婦人が散歩に行くようにし ていた。
 そんなある日の夜、テレビを見ていた婦人がアール氏に話しかけてきた。
「あなた、今日公園でシバが他の人の犬とけんかをしちゃってね。」
 シバとは飼い犬である。ちなみに、柴犬ではなくダックスフンド。
「ふーん。そういえばちょっと土で汚れていたな、シバ。」
「ええ、シバが勝っておさまったけれど、相手の飼い主に何度も頭を下げたわ。」
「負けたやつが最終的に勝つのは、こんなところにも適応されているとは。だが、どうして公園になんて行ったんだ?」
「だって、そこが私の散歩コースですもの。あの三丁目の公園までってかなりの距離で疲れちゃうしね。」
「そうか・・・。」
 アール氏は寝返りをうって大きなあくびをした。
「そういえば、あなたってどんなコースを取っているの?」
「俺はなぁ・・・。」
 アール氏との散歩をシバがいやがる理由が婦人には分かった気がした。それとともにシバをペットショップから購入た日、初めてアール氏に散歩を頼んだ時の 会話がおぼろげながら浮かんできた。
「あなた、シバの散歩に二時間くらい行ってきてくれない? 三丁目の公園のあたりまで、ね。」
 まじめなアール氏は、毎回きっかり二時間ずっと歩いていたのだ。その距離は約10キロに及び、6歳の短足の犬にはかなりの負担だったのであろう。


 ダックスフンドなのにシバ・・・。アール氏のネーミングセンスは最強です。
 「散歩が長すぎて飼い犬が嫌がる」この一文から話をふくらませましたが、そのままになってしまいました。



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