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SSの幼生


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混ぜ
 実験室に立て続けに二人の人間が運ばれていった。
「よし・・・。頭、開くぞ。」
 この手術の主任の声がして、看護婦が奇妙な道具を取り出した。これは、タケヒゴのような形をしているが、非常に鋭利で堅い頭蓋を簡単に切ることができ る。
 難しい手術のためか、手術台を囲む面々は沈黙していた。脳を傷つけないよう人間の上半身をたたせているので、手術が行いにくい。医師たちは二人の頭を切 り、脳をある装置に入れた。
「よし、このスノ氏の体を使おうか。」
「ま、どちらだっていいでしょうね。」
 もう一人の人間はどこかへ運ばれていってしまった。この体はダストボックスに入れられ、肉骨粉にされる。
「合成装置の作業、終了しました。」
「よし。慎重に脊髄に装着しろ!」
 半透明の奇妙な容器に入れられた脳を、医師が慎重に運びスノ氏の横に置いた。スノ氏の首から上に奇妙な装置がかぶさり、ゆっくりと脳が装着された。
「みんな、ご苦労であった。今日の打ち上げは、普段よりも盛大にいこうか!」
 主任がうれしそうに言った。スノ氏につけられていた装置がはずれ、看護婦が病室に運んでいった。残った面々は疲れた顔をして帰っていく。しかし、みんな これからの打ち上げでうきうきしている。

「32.14πかけるLog95で、Logにつく数字はeです。」
「うむ。正常だ。」
 コンピューターでも数分かかる計算を、スノ氏は一瞬にして答えを出した。
「どうですか?」
 スノ氏の検査をしている部屋に、スーツを着た男が入ってきて、検査員の耳元で尋ねた。
「完璧です。ただでさえ計算力のあるスノ氏とミエ氏の脳を合成したので、一般的なホモ・サピエンスの三倍以上の計算力を持っております。」
「それはよかった。では、他の知能に関する部分はどうだ?」
「これから、計算力以外のテストを行います。お暇でしたらごらんになりますか?」
「ああ。」
 検査員の隣にスーツ姿の男は座った。先ほどの会話をガラス越しに見ていたスノ氏は会話内容まではわからないので、奇妙な顔をしているだけである。
「それではスノさん。あなたは友人と無人島に流れ着いたとしましょう。残された食料は一人分、二人ともかなり衰弱しています。食料を食べなければ二人とも 死んでしまいます、あなたらならどうしますか?」
 検査員の質問にスノ氏は腕組みをした。
「スノさん・・・? どうしました?」
「私は・・・食料を食べます。そして、救助を求めるとともに島の様子を調べ友人の食料を探します。」
「なるほど・・・。それでは、スノさん次の・・・。」
「私は・・・友人に食料を食べてもらいます。私はともかく友人に生き延びてもらいたいです。」
「ん? スノさん、あなたは友人に食・・・。」
「私は・・・友人と食料を分け合います。それで二人で協力して生き延びる努力をします。」
 意見がころころと変わるスノ氏に異常を感じ、検査員が他の検査員を呼び始めた。その姿を無視してスノ氏は次々と意見を述べる。
「私は・・・友人を殺して自分だけ生き延びます。それに友人の肉を食べれば食料になります。」
「私は・・・友人を説得し二人で心中します。どうせ助かりません。あの世で幸せに暮らしますよ・・・。」
 ガラスの向こうに数名の検査員が入ってくるのが見えた。
「おい! 感情のふれ幅と、感情の許容量がおかしいぞ!」
 どうやら、二人の人間の脳を混ぜたので計算能力も倍になったが、感情の移り変わる早さや、高ぶり方も二倍になったらしい。また困ったことに脳を合成した ために、自我が干渉しあっているようだ。
「やはり無理だったか・・・。」
 検査員は残念そうにうつむいた。
「そうだな。こんな扱いづらい生き物を星においてもしょうがない。かといって、殺してしまうのは我が星の宗教に反する。帰してこい。」
「知能を高めて、有能な奴隷を大量に生産できると思ったが、誠に残念だ。」
 スノ氏の部屋に催眠ガスが充満した。スノ氏は訳がわからないうちに眠ってしまう。ガスがなくなった頃、部屋に検査員が二人入ってきて、スノ氏をカプセル に入れた。
 脳を合成し、種族の知能を上げてきたこの星の住人は、多重人格となってしまった地球人を、地球へと送り返した。しかし、彼らは決して失望はしていなかっ た。そう、知能が低くても奴隷にはそれなりの職があるのだ。


 多重人格とは若干違う感じがします。
 そういえば、裁判中に初めて自分が多重人格だと分かった人間が最近いたそうですが、本人も裁判に同席した人々も驚いたでしょうね。



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