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SSの幼生


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最強の男 第三部
「首相、法案が見事、通りましたね。」
 国会終了後、首相官邸に向かう車の中で議員が話しかける。
「あぁ、そうだな。これで多少、野党の攻撃がおさまればいいのだ・・・。」
 相変わらず首相は元気がない。
「来年の春には、警察組織の改革を終了させようと思っています。犯罪率を今年の半分に下げるのを目標にしようかと。」
「今年の犯罪は・・・あれでもうたくさんだ。」
「・・・すみません。」
「いや、君のせいではない。私もそろそろ気持ちを入れ替えないとな。」
 首相の目が潤み始めた。
「国会終了後、しばらく休暇を取ってはどうでしょうか?」
「そうしたいものだ。このままでは仕事が手に付かないからな。」
 首相は冗談を言ったように笑っていた。いや、彼は冗談を言ったつもりだがその顔は悲しみで満ちており、周りの人間には本気で言っているとしか思えなかっ たのだ。

「シバ、これを見ろ。」
「・・・、ムロイさん。これは?」
 ムロイはため息をついた。
「いくら社会の決まりに反しようとも俺は気にしない。だがな、せめて社会で起きている出来事くらいきちんと知ってろ!!」
 そう言って彼は、シバに封筒を渡した。
「来年度、警察の組織改革が終了する。それで、警察官の中で、超凶悪犯罪への対処や重要人物の護衛に当たる組織ができるらしい。」
「へぇ・・・。知りませんでした。」
「・・・。で、その組織は今のところ軍隊が担当するが、いずれは警察へと移行される。それでだ・・・。」
 急にムロイの語意が強くなる。
「来年度、新人の一部をその部隊に入隊させることが決定した。まぁ、数年間は育成という形をとるらしいが。で、そいつが、入隊希望者に渡される紙だ。お 前、やってみろ。」
「えっ・・・?」
「シバ・・・いや、芝垣。お前は俺達の組が議員によって支えられていることを知っているな? その議員から直々の命令で、組から何人か入隊希望者を出さね ばならなくなったんだ。」
「でも俺は・・・。」
「俺がこれだけ頼んでもやらないのか? ま、お前の運命は決まっている。来年は楽しく警察にお勤めだよ。」
 ムロイが去った後、シバは封筒を開けた。その中には、自分の写真が入った警察手帳があった。

「・・・、首相。わざわざ私達のところに参拝とは・・・。」
 国会が終了し、数週間が過ぎた。首相は休暇をもらい、ある寺院を訪ねていた。
「戦争というとこの寺を思い出しますので・・・。」
 竹ぼうきを持った坊主の手が止まる。
「・・・、我々の寺は終戦後、国の援助で再建されました。今でも感謝しています。そして、毎年終戦記念日には全国の妙求宗派の寺では感謝の意を込めて祈っ ています。それが、犠牲者の追悼になってしまうとは・・・。」
「何を言うのですか・・・。あなた方の宗派を崩壊させてしまったのは政府の責任でもあるのです。戦後、せめてもの償いをしただけですよ。」
「・・・。」
「まだ、我々はまだしなければならないことがあります。」
「御本尊は今、地中に眠り万人の苦しみを救っておられます。たとえ私達の本道になくとも、我々は大丈夫です。」
 首相は黙って本堂へと向かっていった。坊主は黙って彼の背中を見送っていたが、再び落ち葉を掃き集めていた。
「風が吹いているな・・・。」
 落ち葉が舞い、賽銭箱の中に入っていった。
「・・・、仮に賽銭を入れて全ての願いが叶うのならば・・・私は全財産を投げてもいい。」

(なぜ攻撃するのだ? より重い罪を着せるためか?)
(お前は罪もない人間を殺した)
(では、彼らはなぜ私を攻撃してくる?)
(お前が攻撃を加えたからだ)
(いや、私は敵意のない人を殺した覚えはない)
(そうかもしれぬな。お前に敵意を持つ人間。お前に殺意を持つ人間。そしてお前を拒絶する人間・・・。全てが敵だと言えるのならば・・・お前は正しい道を 進んでいる)
(貴方は一体・・・?)
(私の存在を知りたいのか・・・。その澄んだ志で・・・)

「ん・・・。」
 森を歩いていると、何者かに銃撃された。砂登季はあわてて逃げ、密林を抜けた時に足下を滑らせ川に落ち込んだ。そして、川底に着地する瞬間に足をくじき 水上に浮くことができなかった。
 その後の記憶がぷっつりと無くなっている。
 そして、自分は一体どうなったのだろう? もはや死んでしまったのだろうか?
 先ほどから、自分の体をつつく気配がある。
「・・・ん?」
 砂登季はゆっくりと目を開けた。目の前には見たことのない人間がいた。どう見ても日本人ではない。
「起きたか?」
 砂登季を見つめる人間の一人が、片言の日本語で喋りかけてくる。
「・・・!」
 砂登季は身を起こそうとした。しかし、その腕と足はロープで縛られている。そして、自分の腕と足が天井に固定されており、ハンモックのような状態だとい うことにも気づいた。
「さて、君には聞きたいことが色々あるんだ。」
 砂登季に話しかける人間は、日本人とは違い肌が白い、そして髪は茶色身が強く、最大の特徴は彫りの深い顔と高い鼻、青い目と言ったところか。
 片言の日本語を話す人間が合図をした。すると、同じように肌が白い人間が三人現れた。全員、非常に体格がよく、手には様々な武器が握られている。
「まず、君たち日本軍基地の正確な位置を知りたい・・・。」
「今、何を?」
「はぁ・・・。聞こえなかったか。君たちの基地はどこだ?」
 男が地図を取り出し、適当な位置を指でつついた。
「どこだ? 言わないとどうなるかは想像がつくだろう?」
 その声を聞いた時、体格がいい男の一人がナイフを抜いた。
「言わぬと斬りつけるつもりか・・・。だが、私は軍人でも警察でもない。」
「馬鹿な。ここは日本の領土ではない! 日本が侵略中の土地だ! ここは我が国の植民地だ!!」
 片言の日本語とはいえ、男はムキになって言った。
「こんな場所は、軍隊かゲリラしかいない! それでも、隠し通せると思ったか?」
 男が手をひらめかせた。次の瞬間、砂登季の腹に一筋の傷ができた。服が徐々に赤く染まっていくのが分かった。
「・・・。」
 砂登季をナイフで切った男が、日本語の話せる男に耳打ちをしている。
「自己紹介がまだだった。私はフロディーテ。そして、君をさっきナイフで切ったのがジョージだ。」
 ナイフを持ったまま男がおどけて頭を下げる。
「それでジョージは早く質問に答えないと、もっと深い傷を体中に付けると言っているぞ。」
 フロディーテは一息入れた。
「さぁ、基地はどこだ?」
 砂登季は答えない。と、言うよりも答えられる訳がない。彼は地図を見たこともなかったし、ここがどこかなどということは分からなかった。
「知らぬな。だから、言っただろう? 私は軍人ではないと。」
 フロディーテの表情を見て、ジョージが動いた。砂登季の脇から腰の当たりに一筋の傷ができ、血が滝のように流れ落ちた。
「なぜ傷つける?」
「お前が言わないからだ! さぁ、言え!!」
「私は知らぬ。」
 その言葉を言った瞬間、砂登季のこめかみに聖拳が入った。一瞬にして気を失った。
「・・・、なかなか勇気のある軍人だ。吐かせるには相当の努力が必要だな・・・。」
「なに、我々が全力で吐かせて見せますよ。」
 砂登季の傷を治療しながら男たちが話している。

「ん・・・?」
 あれからどのくらい経ったのだろう? 砂登季は目を覚まし、周囲を見渡した。彼は個室に寝かされており、目の前には腕よりも太い格子の扉が付けられてい る。それ以外は、この部屋から他の場所に出る方法がない。
 幸い、今回は手足を縛られていることもなく砂登季は自由に動くことができた。
「一体、どうして?」
 砂登季は先ほどの出来事を思い出した。川に落ちて死にかけた自分を助けたと思われる人物たちは、自分を縛り上げ訳の分からない質問をしてきた。そして、 何も知らない砂登季をナイフで斬りつけたのだ。
「私は、彼らにとっては敵なのか・・・?」
 暗闇の中、自分にささやいてきた声を思い出した。攻撃してきたので彼らは確かに敵かもしれない。しかし、なぜ川に落ちて死にかけた自分を介抱したのか?  それが分からなかった。
「お目覚めかな?」
 格子の扉の先は薄暗くてよく見えない。しかし、確かにフロディーテの声がする。
「ここから抜け出そうなどという馬鹿な真似は起こさぬ事だな。」
「なぜ、私を閉じ込める?」
 フロディーテの姿が徐々に見えてきた。
「ふっ、とぼけていられるのも、明日の朝までだ。・・・第二ラウンドだ。」
 フロディーテが指を鳴らした。
 すると、砂登季のいる天井からサソリやらヘビやら明らかに有毒生物と思われる生き物が大量に振ってきた。彼らは、落ちた衝撃で一時期混乱していたが、す ぐに砂登季を攻撃しようとしてきた。
「そいつらの毒は強力だぞ。毒を受けても当分は死なないが、明日の昼間には傷口が膿み出すぞ。」
 気づけば、格子扉にガラスが張られていた。フロディーテは格子どの前まで来て不気味に笑い説明を続けた。
「膿む程度ならさほどの痛みではないが、その時には全身に毒が回っている。おもしろい毒だぞ・・・。何しろ体が動かなくなるのに意識が冴え出すのだから な!!」
 フロディーテのカッと見開いた目は不気味な輝きを放っている。
「そして、こいつらは膿んだ部分を食い出すんだ・・・。三日間何も与えていないから、さぞかし腹が減っているだろう。生きながら下等生物に食われていく苦 しみを味わうがいい・・・。」
 砂登季は取りあえず近づいてきた生き物を倒していた。銃弾をよけられる運動能力があるので、ヘビの攻撃などは簡単によけてしまう。クモやサソリは踏みつ ぶされ、ヘビは握りつぶしたり、たたいたりして対処した。
 だが、数では相手が圧倒的に上回っていたために、数カ所刺されてしまった。
 血の臭いと、何か分からない鼻を付く臭いが部屋中にあふれている。砂登季は攻撃してくるものがいないのを確認して、フロディーテをにらみつけた。
 彼は短期間に有毒生物を全滅させる光景を見て、唖然としていたがすぐに不気味な笑みを浮かべた。
「解毒剤が欲しいか? 基地の場所を教えたら、お前にやろう。」
「いや、ここから出してもらおう・・・。」
 基地の場所・・・砂登季には基地自体が何なのかが分からなかった。しかも、知らぬと言う人間に攻撃を加え、何としてでも情報を得ようとする態度に彼は強 い怒りを感じた。

 ビル群ですれ違った若者は、自分に殺意を抱いていた。実際にナイフを抜いて攻撃してきたからだ。その後、出会った警官も私に対して多少なりとも敵意を 持っていた。なぜなら、自分に手錠をはめたし、銃を撃ってきたからだ。では、対テロリスト用部隊や風塵部隊はどうか? 彼らは間違いなく自分に敵意を持っ ていた。見るやいなや銃で狙ってくる人間が、自分に敵意がないのだと証明することは不可能だ。それでは、墓地で出会った若者たちはどうか? ヘリコプター で狙ってきた警察官はどうか? 自分達を追ってきた警察官はどうか? そして、あの建物付近で出会った軍人や警察官は・・・。
 砂登季は今まで殺した人間たちの顔というか姿を一人ずつ思い浮かべた。彼らは皆、自分を攻撃しようとしていたのは確かである。
 では、今目の前にいる自分達とは違う種族の人間、フロディーテたちにとっては死にゆく人間が敵なのか・・・? 死人が攻撃してくるのか?

 砂登季はあれからフロディーテをにらんだままだった。多分、本人が感じた時間よりもずっと短く、ほぼ一瞬だったのだろう。
「ハハハハハ・・・。愚かな。」
 気が付けば目の前に立つフロディーテが笑っている。
「この壁は見た目はコンクリートだが、中には鉄板が仕込んである。そして、この格子も鋼鉄でできている。そして、格子の前にあるガラスは防弾ガラスで非常 に丈夫だ。対戦車用ライフルも効かないよ・・・。どうやって出ようと考えているんだ?」
 フロディーテが、その高い鼻をガラスに近づけた。鼻の周りが曇り、少々間抜けだが砂登季には彼の残忍さしか見えていなかった。
「基地の場所を言え・・・。そうすれば気持ちよく出してやる・・・。」
 ガラスを鼻息で曇らせながら、フロディーテは脅した。
「ならば、力ずくで・・・。」
 砂登季は、片手ではつかめないほど太い格子の一本を両手でつかんだ。そして、徐々に力を入れて引っ張った。格子戸は、金属がすり切れる奇妙な音を出しな がらゆがみ始めた。しかし、交差する部分はしっかりと溶接されており、なかなか外れない。
 砂登季は格子を両腕で抱え、思い切り下に引き寄せた。たとえる音がないほど奇妙な音がして、格子戸の横一列が外れた。しかし、両端はコンクリートに埋 まっており、完全に取り外すことができていない。
「・・・、なかなか丈夫にできている。」
 砂登季は、外れかけの格子の片側を無理矢理引きちぎった。壁内部に埋め込まれている鉄板とも溶接されていたらしく、その部分だけ壁が奇妙にふくらんだ。
 人間技とは思えない光景を目にして、フロディーテは完全に硬直してしまっている。砂登季は、フロディーテに見られていることなど全く気にせずに、反対側 の壁からも引きちぎり、ついに一本の格子を取り外したのだ。
 既に奇妙に曲がった鉄パイプにしか見えない格子戸を砂登季が後ろに投げた。その音でフロディーテが我に返ったらしく、急にほおに赤みが増した。
 彼はあわてて腰にぶら下げた無線機を手に取った。
「昨日、捕まえた日本軍の人間の部屋に、一酸化炭素を入れろ! 部屋から出ようとして暴れ回っている!!」
「はぁ? さっきサソリを落としたばかりじゃないか?」
 普通、有毒生物を落とされた人間は、生き物を全滅させられずに体中を刺されてしまう。そして、ショックで気絶してしまうのが常識だった。ごくまれに、精 神の強い人間は意識を持っているのだが、その後に外へ出ようと暴れ回った試しがない。
「まぁいいや・・・。眠れ・・・。」
 カチッっとスイッチを押す音がした。その瞬間、部屋の角にある微少な穴から勢いよく何かが吹き出す音がした。
 砂登季は自分が通り抜けられるだけの隙間を作るために必死になっている。まずは、しゃがんだ状態で通れるだけの隙間を確保しなくてはならない。したに付 いている必死で格子を動かしているために、ガスが出ていることは愚か、フロディーテが仲間と連絡していたのにも気づいていない。
「ハァ・・・ハァ・・」
 砂登季は妙に息が切れるのを感じた。さすがに疲れる、と思いふっと息を抜いた時に、奇妙な風の流れを感じた。一酸化炭素のガスである。
「・・・?」
 砂登季はガスが吹き出ている場所を調べようと近づいた。しかし、彼が辿り着く前にガスが充満し、彼は意識を失った。
「・・・、ありがとよ。気絶した見たいだから、もう止めてくれ。」
「おいおい、まだ基地の場所を吐いていないのか? もっと上手く吐かせろよ。」
 天井につるして、ナイフで徐々に傷つける。この方法でも吐かない人間は今のように密室に閉じ込め有毒生物に刺させる。たいていの人間はここで情報を吐く か、吐かずに死んでいく。たとえ吐いたとしても、有毒生物の毒が回っているためにまともに動けない。それをいいことに、部屋に一酸化炭素を注入し窒息死さ せる。いくら拷問で人を傷つけている人間でも、体中が膿んでいる死体を運ぶのは嫌である。
 無線の相手は、フロディーテが日本人に嫌味を言われカッとなり、殺すためにガス注入を命令した。その後、冷静になりあわててガスの注入を止めるように指 示をしたのだろうと思った。
 意識が戻る頃には、日本人も毒が回り徐々に体が麻痺してくるだろう。その時、もう一度有毒生物を落としておけば彼らが体を食べ出す。そして苦痛と、解毒 剤欲しさに情報を吐く・・・初めはだれもがそう考えていた。
 しかし砂登季の戦闘能力と精神の強さは今までの人間とは比べものにならなかった。もしかしたら、今までの方法では駄目なのかもしれない。
 部屋の中に充満していたガスが空気に入れ替わった頃、天井が動き、ロープで体を釣った軍人がするすると降りてきた。砂登季の意識が戻っていないのを確認 し、彼を部屋から出した。
 軍人たちは砂登季を担架に乗せ、ベットの上に寝かせた。そして、注射器で強力な麻酔を刺した。中には強力な自白剤も入っており、麻酔が切れる頃には自白 剤が効いている。これで、情報を吐かせる準備ができたはずだ。後はどの様に相手を追いつめ、情報を吐かせるかだ。とにかく早く基地の場所が知りたいので、 軍人たちはどのような方法をとるべきか会議をした。
 格子戸を引きちぎるだけの力の持ち主だ。毒が回っているとしても相当の力があるだろう。仲間の被害を最小限に抑え、それでかつ素早く情報を得て、殺す。 それには、一体どの様な手段がいいのだろうか? 一応、自白剤も入っている、毒も回っている。何か工夫が必要だろうが、簡単に良い考えが出てきそうであ る。

 砂登季の右腕が奇妙に揺れた。痙攣したかのように揺れたのだが、本人が痙攣しているという感覚はなかった。そして、次に感じたのが猛烈な痛みであった。
 砂登季は壁に貼り付けられていた。両手両足を手錠でつながれ、壁に貼り付けられている。そして、右手首は見事に銃弾で撃ち抜かれていた。
「ちょっと、目覚めさせる刺激が強すぎたかな・・・。」
 前を見たが、強烈なサーチライトに照らされて黒い影しか見えない。だが、その声の主は間違いなくフロディーテである。
「君も知っての通り、お互いに時間がないだろう? 我々が君たちの侵略を防いでいるうちに、下等な先住民族が発言する力を持ってしまった。だが、所詮喋る だけで、筋が取っていない。」
 砂登季はまぶしさをこらえながら、前を見ている。徐々に目が慣れてきたためか、フロディーテの後ろに何人もの人間がいるのが見える。彼らは、横一列に整 列しており、肩から銃口が飛び出しているのが見える。
「そして、筋が通っていないことを証明してみせると、奴らは汚い現地の言葉を吐き、暴れだし、我々を攻撃してきた・・・。君たちの軍もそれで苦労している だろう? 奴らは君たちにも攻撃しているのは分かっている。」
 フロディーテは一息入れた。
「君たちには早くここから出ていってもらいたい。・・・だが、君たちはそうしたくないらしい。我々は、この土地にいる反逆者を早めに消して平和を取り戻し たいのだよ。私達が今すぐに君たちを追い出せるよう基地の場所を教えてくれないか?」
 砂登季は基地の場所を知らない。知らないために答えられる訳がない。ならば彼らの取る行動はただ一つだろう。持っている銃で砂登季を撃つ・・・。
 そのことに気づいた時、砂登季は手錠を引っ張っていた。鎖が歪み、後ろの壁がはがれた。砂登季は支えを失い、前に倒れてしまったが、手錠さえ外すことが できれば自由になれそうである。手に付いている手錠は、両方共に一本の鉄筋でつながれており、彼は鉄筋と手錠の輪とをつなぐ鎖を引きちぎった。
 そして、倒れた体を起こして、足に着いている鎖を切った。
 彼が倒れた時から、フロディーテの後ろに控えていた軍人たちが発砲してきたために、彼は何発かの銃弾を食らっていた。しかし、以前食らった銃弾よりも威 力がないために、深刻な痛みではない。背中からおびただしい血を流しながらも、自分を貼り付けていた壁を砕き、砂登季は逃走した。
 急にサイレンが響き、数人の軍人を乗せた車が砂登季を追ってきた。
「追え! 奴を逃がすな!」
 フロディーテの声が響く。しかし、彼の顔にはなぜか笑みが浮かんでいた。その笑みに気づいているのは、フロディーテの近くにいた数人だけである。残りの 軍人は大慌てで追跡に向かっている。
 しばらくして控えていた軍隊がいなくなり、急に周りが静かになった。フロディーテは振り返り、急いで建物内部へ向かっていった。その後ろに何人か軍人が 続く。
「これも予想通りということか・・・。」
「あぁ、ここで吐かせられなかったのは残念だが。後は味方がやられない程度に奴を追い回せばいいのだからな。」
「俺達の軍は演技の練習をしていないから、少々心配だがな。」
 フロディーテたちは、仲間の冗談に笑っていた。

「くそっ! もっとちゃんと狙え!」
 砂登季の後ろを何台もの車が走ってくる。砂登季は、道路を外れ木が乱立している場所を走り抜けていた。こうすれば、車は追ってこれないし、銃で狙いも定 めにくくなる。
「日本人追跡をしている隊員、全てに告ぐ。」
 味方の士気を奮い立たせるために大声で怒鳴っていた声を押しのけて、無線からフロディーテの声がしてきた。
「日本人追跡をしている隊員に告ぐ。このまま追跡を続け、奴を相手の基地へ向かわせろ。殺すな。上手く追って、基地へ向かわせるんだ。」
 先ほどまで大声で怒鳴っていた人間たちは、急に黙り顔を見合わせた。しかし、自分達よりも地位が高い人間からの命令である。逆らうことはできない。
「・・・了解しました。」
 フロディーテは無線機の向こうから、追跡中の人間たちの声を全て聞き終わると続けた。
「いいか、歩霧河まで追ったら追跡をやめろ。それ以上行くと、日本軍もゲリラもいて危険だ。」
「了解しました。歩霧河まで追跡し次第、退却します!!」
 フロディーテの考えを完全に理解した人間がどれほどいるかは怪しいが、一応は納得してもらえたようだ。
「よし! 日本人が走っている付近を狙え。いいか! 本人は狙うな!!」
 命令を遂行するために隊員たちは必死に砂登季のいる付近を狙った。隊員たちに、砂登季を狙わないように注意を促す命令は、何度も何度も繰り返し叫ばれて いたが、激しい銃声のためにかき消されてしまって砂登季には届かない。それに、彼は逃げるのに必死で相手の声まで聞いている余裕はなかった。
「・・・しつこい。一体、どれだけ逃げれば振り切れるのだ?」
 車は砂登季の動きを制御するかのように、上手く銃を撃っている。道からあまり離れないように、そして歩霧河まで走っていくように狙っていた。
 アメリカ軍も歩霧河の先に日本人の基地があることは分かっていた。では、どうして正確な位置が分からなのだろうか。なぜなら、偵察機を飛ばすことができ ないのだ。
 第二次世界大戦が勃発して以来、世界中が戦乱の渦に飲み込まれた。国際連盟を脱退し、自分の領土を広げるべく戦旗を翻した日本、イタリア、ドイツは順調 に領土を広げ始めた。そして、それを防ぐべく当時の先進国も彼らに対して攻撃を開始した。ところが、日本、イタリア、ドイツは善戦し、全く引こうとしな い。場所を変え、兵器を変え戦闘はだらだらと続いた。とうとう、目の前には新世紀が見えるまでになっていたのだ。このころには、原子力潜水艦が量産され、 海中で常に敵国の動きを監視している。また、戦闘機も進化し、音速の壁は十数年前に突破していた。宇宙は何基もの軍事衛星が打ち上げ、敵国の様子を観察し ていた時代はもう終わった。敵国衛星の電波にノイズを組み込むための、妨害用衛星まで完成しているのだ。
 始めは先進国どおしの戦いであったが、その戦乱に乗して産油国までが戦争に加わったのだ。理由は、原子力の一般化に伴い、石油での経済発展が難しくなっ た。それだけである。しかし、新しい勢力が誕生し、大戦はより混沌としていった。
 そして、こんな状況の中、日本軍は東南アジアで比較的、兵力が集中していない竜身峰の侵略を開始したのだ。ちなみに、ここは数年前からアメリカが植民地 として統治している場所であった。アメリカにとっては、ある日突然、日本人が自分達の領土を広げ始めたということになる。
 突然の侵略に、アメリカ軍はあわてて竜身峰に基地を作ったのだ。この場所を植民地にするために、数十年前に作った基地を再び作り直しているのだが、設備 が古すぎたためにほぼ全て作り直している状況である。そのため、今でも基地の建設は続いており、困ったことに滑走路ができあがっていない。他の基地から偵 察機を飛ばすにも、燃料の心配があり日本軍の基地の場所はよく分からないし、過去に数機向かっていったが一機も帰ってこなかった。海上から偵察しように も、日本軍が巧みにそれを阻みうまくいっていない状況である。逆に、日本軍も滑走路が完成していないらしくアメリカ軍の基地を知らない。
 このようなアメリカにとってはじれったい状況がしばらく続いた。そして、この混乱を利用して、とうとう現地住民が独立を求めゲリラ活動を始めてしまった のでたまらない。幸か不幸か、彼らは外国人を完全に追い出す考えらしく、日本人と結びついていない。
 じわじわと、そして確実に領土を広げている日本軍とは最近まで歩霧河を挟んで戦闘が続いていた。だが、基地から多少離れているため物資が切れたらしい。 最近はあまり銃声が聞こえないが、補給が終了し次第再び戦闘が始まるのは明らかである。
 ゲリラと日本軍、一度に二つの敵を相手にするのはさすがに骨が折れる。早くどちらかを始末してしまいたい。そう考えたアメリカ軍のもとに偶然運ばれたの が、川に落ちておぼれかけていた砂登季なのであった。
 捕獲した日本人、まぁ砂登季なのであるが、は非常に身体能力が高く、硬い意志の持ち主であった。時々、捕獲したゲリラに対してするのと同じ方法で、拷問 をし基地の場所を聞き出そうとしたがうまくいかない。会議の末、壁に貼り付けて銃で脅すことを方法を選んだが、自分の腕よりも太い鉄の格子戸を破壊するだ けの力の持ち主である。普通の方法では縛りつけておくことはできず、ほぼ間違いなく逃げ出すだろう。そう考えて、彼の懐に発信器を仕込んで置いたのだ。大 きさは、小さなボタンほどであり必死に逃げている人間が気づくはずはない。
「・・・橋だ。」
 銃弾と木を避けながら走っていた砂登季の前に、巨大な川とそれをまたぐ橋が見えてきた。川の流れは速くはないが、非常に濁っており深さが分からない。
「さすがに泳ぐわけにはいかないだろう・・・。こうなれば・・・。」
 砂登季は足を速めた。一気にアメリカ軍との距離が開く。
「・・・足を速めたぞ! 逃すな!」
 確実に歩霧河を渡らせなければならない。アメリカ軍の車はアクセル全開で走っているのだが、乗組員が多い上に悪路。砂登季との距離はなかなか縮まらな かった。
「歩霧河が見えてきたぞ! 慎重に行動せよ!」
 他の日本軍からの攻撃があるかもしれない。隊員たちは今までにまして真剣な顔になった。
 砂登季は道に入り、橋の上に立った。そして、数メートルほど走った後に、橋を破壊してしまったのだ。鉄筋とコンクリートで作られ、戦車も通ることができ る橋が砂登季の前だけ足場がない。そして、その幅は車が一台分以上入る巨大な穴であった。もう、車での追跡は不可能になった。
「悪く思わないでくれ。」
 砂登季は軽いめまいを感じた。アメリカ軍の基地から逃走する前からずっと感じていたのだが、徐々にひどくなっている。どうやら、毒が回ってきたらしい。
 基地を抜け出す時に数発の銃弾を受け、しかも毒のために軽いめまいがする。この体調の異常と傷のために砂登季は追跡してくるアメリカ軍と戦おうとしな かったのだ。
「くそ!」
 いくら殺さずに逃がすとはいえ、こうも上手く逃げられてしまうとアメリカ軍も悔しいらしい。そこら中から同じような声が聞こえる。
「・・・。河を渡ろうと思えば渡れるが、反対側の兵力を調べる装置を持っていない。引き返すぞ!」
 荷台の上に立っていた一人の声により、全員が車に乗り引き返し始めた。河を渡って追ってくるかもしれぬと思い、全速力で反対側に渡っていた砂登季はそれ を見て安心した。

「これで、やっと落ち着けるのだろうか?」
 河の反対側にはアメリカ軍はもういない。しかし、うっそうと茂る森の中、何が出てきてもおかしくはない。砂登季は周囲に意識を集中しながら歩いていた。
 先ほどからどうもめまいがおさまらない。彼はどこか身を潜められる場所はないか探していた。森の中なので理論的にはどこにいても身を隠すことができる。 しかし、逆にいえば敵も身を隠すことができてしまう。敵に絶対に見つけられない場所、もし見つけられるとしても、自分はある一点にいる時にしか見えない場 所を砂登季は探していた。
 しかし、木はたくさん生えているが平地のため、理想の場所はなかなか見つからなかった。
「・・・、まいったな。」
 日差しが妙にきつくなってくる。そして、心なしか平地の地面に凹凸ができているように見え始めた。
 砂登季は毒というものが何か分からなかった。そのために、これが先ほど殺したヘビやサソリに刺されたために起きた症状とは全く考えていない。しかし、今 までにない経験のために異常は感じていた。
 ふらふらと砂登季は道なき道を歩き続けた。遠くから鳥の声が聞こえるが、頻繁に音域が変わって聞こえる。相当、毒が回っているらしい。奇跡的に刺された 場所が膿んでいないのは、砂登季の高い生命能力と治癒能力のおかげだろう。だが、毒を消すほどの治癒能力は持ち合わせていないらしい。
 次第に木に体をもたれながら砂登季は進んでいた。まさに気力だけで歩いている状態である。
 幻なのか、現実なのか砂登季には区別が付かなくなっていたのかもしれない。しかし、彼には道が見えたのだ。
 道の真ん中を堂々と進み続けるべきなのか? もうろうとした意識の中で砂登季は考えた。道があるということは人が通る。それは、自分の敵なのかもしれな い。もしかしたら味方なのかもしれないが、砂登季には味方といえる人物はもうこの世にはいなかった。
 気づくと彼は道に沿って森の中を進んでいた。なぜ道の沿って歩いているのかは分からなかった。
「おい、お前! そこで何をしている? 持ち場は?」
 どこからか声が聞こえてきた。砂登季にはどこから発せられた声なのかは分からなかった。
「・・・? 三つ数えるまでにお前の名前を言え!」
 再び同じ声が聞こえた。
「一・・・、二・・・、三・・・。」
 しばらくの沈黙の後、カチャッという金属音がした。そして、その瞬間、迷彩服に身を包んだ人間が砂登季の前に飛び出してきたのだ。
「見た目は日本人だが、軍部の人間ではなさそうだな。・・・同種を殺すのは胸が痛むが、国のためだ。悪く思わないでくれ!」
 彼の拳が日に照らされて鈍く輝いた。反射的によけた砂登季のすぐ横を、鈍い光はのびていった。そして、今度は反対側がきらめき、砂登季の胸元めがけての びてくる。
「・・・!?」
 驚いたような声が聞こえる。ほぼ視界がぼやけており、砂登季には相手の症状が見えなかった。相手の体勢がかろうじて見えているのでよけられているが、視 界がこれ以上悪くなったら不可能であろう。そして、あまりに視界が悪いので自分からは攻撃することができそうにない。一瞬の隙は、相手にとっては攻撃の チャンスである。
 一体何者が自分を攻撃してくるのか分からないまま、砂登季はかけだした。
「待て!!」
 砂登季を狙った男は、必死で追いかけた。彼は腕に金属製の篭手をはめていた。
 体に毒が回り、意識がもうろうとしていても砂登季の身体能力はさほど落ちていなかった。彼の足は時速五十キロ程度出ていただろう。
 ところが、驚いたことに砂登季を追う男も、距離は徐々に離されてはいるもののちゃんと追いかけてくるのだ。
「・・・、一体誰だ?」
 視界がますますぼやけてくる。もう、木々をぬって逃げるのは困難と見て、砂登季は道路に飛び出して走った。気をよける手間がないために、彼の移動速度が さらに上昇する。
「ちっ、振り切られる! あいつは誰だ? 疾風か?」
 砂登季を追う男は、腰に下げた無線を取り出した。
「こちら、警備中の山岡! 今、怪しい日本人を発見し、追跡中。援軍を要請する!!」
「分かった。近くにいる工藤、遠山を向かわせる。発信器の空中放電力を二十ワット上げろ!!」
 無線から返事が返ってくる。男は、ベルトの中心にある装置を動かした。
 砂登季との距離はどんどん離れており、ついに百メートルを超えた。彼は、追いつくのは不可能だと思ったが、必死に追いかけた。
 怪しい人間を見つけ、敵であることを確認し次第、直ちに殺す。これが彼の任務であるのだ。
 道路横の木が倒れた。そして、その木は砂登季の前に倒れ道をふさいだ。砂登季は一瞬立ち止まったが、見事な跳躍で飛び越えて先に進もうとした。
 ところが、着地点のすぐそばに、迷彩服を着た男が立っていたのだ。
「お前か! 死ね!!」
 すさまじい気迫と共に、男は拳を繰り出してきた。先ほどの人物のそれよりも幾分か速い。攻撃をかろうじて避け、少しよろけながら砂登季は走った。
 男は攻撃をかわされたことに少々驚いたが、気持ちを切りかえて追跡を始めた。
「遠山!! 俺だ。お前あいつに追いつけるか?」
「いや、無理だろう。速すぎる・・・。」
 山岡が無線機で話しかけてきた。先ほど木を殴り倒した遠山は、彼が来るまで待つべきか考えたが、無線で会話をしながら砂登季の追跡を続けた。
「一体、奴は何者だ?」
「知らない。迷彩服を着ていない所からして、軍部の人間ではなさそうだが・・・。」
「・・・。まいったな、基地に向かっているぞ。」
 会話をしている間にも遠山も山岡も砂登季との距離が徐々に離れている。
「工藤でも追いつけるかどうか・・・。」
「・・・、取りあえず期待をしてみるか。」
 砂登季の走っている道が、開けた場所に続いている。そして、その場所には寺院と数棟の軍事施設が見えてきた。
 砂登季は寺院というものが何か知らなかったので、全て同じ建物にしか見えなかったが、軍事施設はアメリカ軍のものと似ているのは何となく分かった。
「これは、まずい場所に来てしまったのかもしれぬ。」
 砂登季はうめいたが、他に良い知恵も生まれなかった。仕方なく、その場所へ向かって進むしかなかった。向かっている先は、完全に開拓されており、道に石 が落ちていることもない。そして、所々にはアスファルトの舗装もなされている。
 徐々に近づくにつれ、砂登季にも寺院と軍事施設が別の建物のように思えてきた。いや、建物の二十メートル手前まで近づかないとはっきりと見えないくら い、視界が悪くなっていたのだ。
「・・・。お前か! 堂々と基地の内部に入ってくるとはいい度胸だ。」
 二人、迷彩服に身を包んだ人間が立っている。その片方が砂登季に声をかけてきた。そして、次の瞬間、二人は彼に襲いかかった。
 一瞬で二人は砂登季の左右に立ち、ほぼ同時に攻撃してきた。度重なる戦闘で得た感と、かろうじて見える相手の体勢を頼りに砂登季は攻撃を避けた。しか し、二人が相手となるとなかなか振り切れない。いや、相手のチームワークによりその場から離れることができなかったのだ。
 次々と繰り出される攻撃の威力はすさまじかった。舗装された土の道に大きなくぼみができた。木の幹がたった一撃で、道に倒れてくる。
「・・・!?」
「くそ! 攻撃が当たらない!!」
 攻撃してくる二人は焦っているようだ。それならば相手にもスキができるかもしれない。こう考えたはいいものの、砂登季の今の体ではよけるのが精一杯だっ た。だいぶ足がもつれてきている。そして、太陽の光が目にはいると倒れそうになる。
 とにかく、周りに障害物がある場所へ逃げ込まなくては・・・。体中から汗が噴き出し、息が荒くなってくる。視界はますますぼやけ、戦闘どころではない。 砂登季は、近くにあった寺院に飛び込んだ。
 いや、正確に言うと、寺院を取り囲んでいる壁を破壊し中に入ったのだ。
「神聖な場所にそのように入ってくるとは! この無礼者!」
 壁の近くにいた人間が砂登季に怒鳴っている。しかし、砂登季は無視して走り続けた。
 建物が道を挟んで、等間隔に並んでいる。どれも、瓦葺き白壁の建物である。そして、その建物が終わると石段が続いていた。石段の先には大きな門があり、 扉は開いている。その奥には、巨大な建物が建っていた。いわゆる本堂であろう。
 本堂へ続く道は、石が敷かれており、障害物といえるものが何もない。砂登季は仕方がないので石段を駆け上がった。
「すみません! あの不審者を殺さねばなりません!」
 砂登季を追う工藤ともう一人を指さしながら、遠山が坊主に説明している。その話を聞いた坊主は急に印を結び、呪言唱え始めた。
(敷地内に不審者が侵入した模様。軍部の人間が追跡しています)
 坊主は呪言を唱えたまま、寺院にいる仲間に報告をしている。この方法は、修行を積み多少なりとも霊力のある者ならば簡単に理解できる。正確に言うと、霊 力がある人間には、坊主が送る霊波が自然と感ぜられ、異常に気づくという仕組みである。
 彼らの話によると、霊波というものは自然界の至る所から発せられているが、何かを伝えようとしたりするときに送る霊波というものは一般のものとは質が違 うものらしい。
(特徴として、その人物は一般的な洋服を着ているとのこと。彼はこの寺院の壁を破壊し、敷地内に侵入しました。かならずや、神か仏の裁きを受けるべきで す)
 坊主は印を解いた。
「敷地内にいる全ての僧侶、神官に報告しました。もう、彼には逃げ場がありません。」
「はぁ・・・。」
 霊波が感じられぬ軍部の人間は唖然としている。
「・・・!?」
 霊波を感じたのは、寺院にいる僧侶や神官だけではなかった。砂登季もその異常な霊波の流れを感じたのだ。
「いたぞ!!」
 本堂へ通じる門を飛び越えて、二人の僧侶が砂登季に向かってくる。それぞれ、金剛杖を持ち、片手で奇妙な印を結んでいる。
 その瞬間、砂登季の体に数百本の糸がからみついてきた。霊力により作られた糸であるため、霊力というものを感じることができない人間は、その実体を見る ことができない。幸い砂登季には霊力が備わっていたらしい。彼はその糸を素手で断ち切った。
「何? 糸縛術を防ぐとは!」
 僧侶の一人が驚きの声を発する。
「落ち着け!」
 もう一人の僧侶はやや年輩で、落ち着いていた。彼は再び印を結ぶと深い祈りの中に入ってしまった。
 僧侶は霊力で壁を生み出し、砂登季の四方をふさいだ。
「・・・、お主多生の霊力があると見えるが、その壁はそう簡単に破ることはできまい。」
 僧侶の見下した声が聞こえる。砂登季は後ろを振り返り、軍人との距離を確かめた。もう、かなりの距離が狭まっている。
 彼は自分の拳で目の前の壁をうち砕いた。そして、僧侶たちを飛び越え、本堂へと入っていってしまった。
「馬鹿な! 霊力の壁を、拳でうち砕くなど不可能なはず。」
 年輩の僧侶の驚いた声が響く。
 本堂に入ると、数多くの神官や僧侶たちが待ちかまえていた。彼らは、それぞれに印を結び様々な呪術で砂登季の動きを止めようとした。しかし、それらはこ とごとく砂登季にうち破られている。
「一体、何者なのだ!?」
 僧侶や神官たちからも、そして砂登季からも疑問の声が上がる。寺院にいる人間たちは、かなりの修行を積んでおり、軍人ですら赤子の手をひねるように殺す ことができる。しかし、目の前にいる砂登季には霊力がほとんど通じないのだ。それどころか、拳だけでその呪術を破っている。本来、霊力を破るには、相手よ りも強力な霊力が必要なのだ。
 そして、砂登季も今まで見たこともない方法で攻撃をする人間たちにとまどいを感じていた。また、毒によるめまいが相当ひどいものになっている。
 しばらくの間、大量の糸を断ち切っているうちに、砂登季は本堂の奥にもの凄い力を感じた。そして、本堂の中で一人の神官が祈っているのも見えた。
 他の人間が戦っているのに、なぜ一人だけ建物の中で休んでいるのだ? 的ではあるのだが、砂登季はその神官に対して疑問を感じた。
 次の瞬間彼の体は動かなくなった。まばたきをすることも、呼吸をすることもできない。しかし、苦しくはなく意識もはっきりしている。
「!?」
 今まで数多くの呪術をうち破ってきた侵入者が急に倒れたことで、寺院にいる人間は呆然としている。
「皆のもの、落ち着きなさい。今、蛙臥命の霊力を借り侵入者の動きを止めました。」
 本堂からかなりの歳の老人が歩いてきた。顔中にシワが刻み込まれ、髪の毛はもうほとんど残っていない。服装からして神官のようだ。
「癒薙命・・・。」
 どこからともなく、こんな声が聞こえる。
「一体何者なのかは分からぬが、かなりの霊力の持ち主だ。阿大官以上の人間は、この人物の動きを封じておくために祈り続けよ。」
 そう言って、癒薙命と呼ばれた老人は歩いていく。見た目から感じる年齢のわりに声はしっかりしているし、杖なしでも歩いている。そして何より、他の神官 とは格段に違う迫力を持っていた。
「ハァハァ・・・。追いついた。ところで、侵入者は?」
 数名の人間が本堂に向かっている頃、軍部の人間たちが走ってきた。そして、本堂前の庭で倒れている砂登季を見た。
「ありがとうございます。本来は我々がこの寺院を守らねばらないのに・・・。」
「いえ、困っている人間を助けるのは我々のつとめです。」
 軍人の横に立っていた僧侶が答える。それに答えて数名の軍人がお辞儀をしている。
「こちら工藤。問題の侵入者を捕獲しました。」
「・・・了解。その男を直ちに医学研究室に運べ。」
「・・・は?」
 砂登季が本堂に入ってからの行動や、寺院の人間がどうやって彼の動きを封じていたのかといったことを聞いていた軍人たちは一斉に工藤の方を見た。
「基地のトップの命令だ。詳しい理由は分からない。」
「了解しました。」
 工藤が無線を切ると、軍人たちが集まってきた。
「一体どうしたのだ?」
「医学研究室へ運べ、だってさ。」
「はぁ・・・?」
 不審者を殺すのが彼らの任務であるし、今まで出会った不審者は全て殺してきた。それがたとえ日本人であっても、少女のゲリラであってもだ。情け容赦のな い命令を着実にこなしてきた彼らにとって、不審者を生かしておくというのは、天地がひっくり返るようなことであった。
 命令にとまどいを感じつつ、軍人達はそっと砂登季に近づいた。彼はピクリとも動かないが、呼吸はしているらしい。目を閉じているので、眠っているらしい がいつ動き出すか分からない。いくら霊力を持っている神官達が動きを封じたとはいえ、軍人達には霊力を信じていないものがいた。それに、用心するに越した ことはない。
 緊張した顔の軍人のもとへ一人の神官が近寄ってきた。彼は軍人たちにほほえみ、自分も運ぶのを手伝おうと言った。しかし、見るからに体格が違っていたた め軍人たちはそれを断り、砂登季を担架に乗せた。そして基地へ向かって歩き出した。だが、その神官は着いてきた。
「この男に興味はあると思いますが、早く運ばねばなりませぬので・・・。」
「その男をどこに運ぶかは私は気にしません。しかし、軍部の方に一言いっておかねばならないことがありましてな。」
 寺院の人間の話からして、砂登季は相当の霊力の持ち主だとらしい。彼らは霊力を感じることはできないし、霊力が一体何なのかは分かっていない。しかし、 砂登季がかなりの危険人物だということは分かっていた。用心するに越したことはない。ならば砂登季の動きを封じることができた寺院の人間たちの話も聞くべ きだろう。全員がそう思い、神官の方を振り向いた。
「彼の肉体は今、動くことはできません。ですが彼の魂は動くことができます。現在、上部三位の神官たちが交代で祈り彼を封じています。そのため一応は安全 ですが、彼の魂が自由に動くことができるのを忘れないでください。」
「して、魂が動くと何か困ったことが起こるのですか?」
 神官は軽く咳払いをして言った。
「我々が彼の肉体と魂を封じるために祈っています。しかし、魂が霊力を使うのを封じられても、動き回るのを封じることはかなり難しいのです。」
「つまり、幽霊に気をつけろと?」
 軍人たちにはいまいち分かっていないようだ。困り果てた軍人たちの顔を見て、神官は補足した。
「そんなところです。化かされても混乱しないように・・・。」
「はぁ・・・。」
 担架で砂登季を運んでいく軍人たちを見送りながら、神官は印を結んだ。
「おや・・・。既に霊体として動き回っていますな。」
 神官はそうつぶやいたが、軍人たちには聞こえていない。いや、むしろ余計な混乱をまねかぬように小さな声で言ったという方が正しいかもしれない。

「基地周辺の警備に当たっている山岡、遠山です。先ほど、追跡していた不審人物をここへ連れてきました。」
 扉の前にあるスイッチを押し、マイクに向かって話しかけている。
「ご苦労様。今から扉を開けます。」
 その扉だけは真っ白で、土やほこりにまみれた廊下や他の部屋と明らかに違っている。この扉の先には、現在日本でも最先端のDNA解析とDNAを操作する ことができる設備が備わっているのだ。
「さてと、真空室に空気を入れてと・・・。」
 軍人に応対していた研究者が、機械のスイッチをいじっている。
「どうぞ、扉を開けて入ってください。」
 そう言ったものの、扉は自動的にスライドした。岡山、遠山は砂登季を乗せた担架を持ち上げ、部屋の中に入った。入った部屋は筒状になっており、目の前に はもう一つ扉がある。
「あなた方が見ている扉の先は、無菌室ですのでその人物を殺菌しなければなりません。あなた方は、担架をそこに置いて部屋から出てください。」
「分かりました。」
 部屋から出て廊下に戻った軍人達はため息をついた。非常に戦闘能力の高い不審人物をずっと運んでいたのだ。寺院の人間は絶対に大丈夫だと言うが、気を抜 くことはできない。それに外部の人間を施設内に入れることですら異例なのに、戦闘の仕方を知らない学者にこんな危険な人物を渡して大丈夫なのだろうか?  途中で暴れ出したらどうするのだろう? 運んでいる間、ずっと気をもんでいたのだが砂登季が自分達の手元から離れたためか気が緩んだようだ。
 とはいえ自分の管轄街のことに干渉することは許されていない。軍人たちは素直に指示に従い、砂登季を運んだ。しかし、どうしてこの不審人物を研究施設に 持ち込まねばならないのかは未だに分からないままである。
「さてと、さっさと殺菌をして・・・と。」
 あらかじめ研究材料が運ばれてくることは知っていたらしく研究員はすぐに行動を開始した。砂登季の戦闘能力を知らされていないのか、寺院の人間の力を信 じ切っているのか緊張感がない。
 研究者が再び二、三個のスイッチを押すと砂登季に向けて白っぽい液体が拭きかけられた。その液体は、砂登季にそして床にかかると、すぐさま蒸発してし まった。
 研究者は仲間を数人呼び、担架を持ち上げると診察台のような場所へ運んだ。手際よく砂登季の服を脱がし、体に刻まれた銃痕と有毒生物に刺された傷を発見 した。既に膿が拳ほどの大きさに広がっており簡単に見つけられたのだが。
「どうしてこんなに傷だらけなのかねぇ・・・。」
 研究者はぼやきながら砂登季に解毒剤を注射した。DNA解析をしている間に、研究材料に死なれてしまっては困る。
 しかし、こんなに気を抜いて作業を行っているところを見たら、先ほどの軍人達は目を丸くしているだろう。
「さてと・・・。取りあえずCTスキャン・・・。」
 診察台はローラーが着いており、今回は一人で運ぶことができた。研究者は、巨大なCTスキャン装置の中に診察台を転がして部屋を出た。重厚な扉を操作 し、彼は液晶画面の前にある椅子に座った。
 画面に表示されているボタンに触ると、巨大な装置から低い音が鳴る。CTスキャンが動き始めたらしい。液晶画面に砂登季の体内の様子が、頭部から徐々に 表示されていく。
「・・・!!」
 研究者は息をのんだ。
「こいつが上部の指示で運ばれた不審人物か・・・。」
 他の研究者数名が興味を持ったらしく、近づくが同じように息をのんでしまう。
「・・・? まさか銃弾か?」
 液晶画面に映し出された砂登季の体内には、百数十発の銃弾が食い込んでいた。骨に入っているもの、肺の内部に入っているもの、様々なところに銃弾が入っ ている。最もすごいのは、脳の内部に入っていることだ。
「信じられん! こんな状態でも生きていられるとは!!」
 誰とはなしにこんな声も漏れた。
「これだけでも奇跡だが、警備部隊の追跡を振り切る身体能力を持っている人物だ。DNAのパターンを調べてみれば秘密が分かるかもな。」
 CTスキャンへ砂登季を運んだ研究者は、平静さを保っているふりをした。
「あぁ・・・。」
 他の研究者も持ち場へ戻ろうとしない。
 なぜ日本軍が数多くの先進国からの攻撃に耐え、世紀末まで戦争を続けられたのか? この秘密の答えは、この研究室が最もよく表している。日本は明治維新 の時に、幕府が朝廷へと主権を返却した。その後、天皇が西洋の列強に習い現在の政府を作ったのだ。日本は列強諸国からの驚異におびえつつも、第一次世界大 戦を勝利国として乗り切った。その時に日本人のある生物学者が一つの説をうち立てたのだ。
 「DNAはその人物の全てを記録している。つまり、多くの人間のよい部分のDNAだけを集めれば、究極の人間ができる。」。というものだった。当時 DNAは存在が知られたばかりで、それが一体どのようなものかという正確な答えは出ていなかった。しかし、日本政府は電子顕微鏡が存在していない時代に、 この仮説に賭け極秘の研究を続けてきたのだ。そして、一般的に言われている電子顕微鏡発明の十数年前には、それを開発し、着実に地盤を整備してきた。それ からの技術革新は飛躍的なものであった。耐久力、治癒能力、運動能力全てにおいて一般的な人間を圧倒する軍隊を整備することに成功した。
 ちょうどその頃であった、国際連盟での意見の食い違いにより日本他、ヨーロッパの数国が一般的な意見と反対の立場を取ることになった。それから数年間、 日本を含め、これらの国々は冷遇され、不満がたまっていた。そして、ついにそれが爆発し、戦旗を翻したのである。
 数では圧倒的に不利な日本軍は、個体性能で諸外国を圧倒した。日本軍が作り上げた強化人間部隊は防弾チョッキなしで、銃弾を数発食らっても全く影響はな いし、人間がねらいを定めるよりも早く移動できてしまう。また、夜間でも目が見え、その体から放たれる攻撃は普通のコンクリートの壁を砕いてしまう。この 部隊の活躍により、日本は順調に領土を広げていた。さらにありがたいことに、諸外国はこの強化人間部隊の存在を確認していないらしい。どの国も日本の技術 力や、軍の統一性だけに驚異を覚えていたのだ。
 そして、このような強化人間を生み出す施設が砂登季が運ばれたような研究所だったのである。日本軍は、外国に拠点を作る場合は、風雨をしのげる建物以外 にかならずこの医学研究室を作り、強化人間を生み出していた。
 この施設の役割は、幼児のDNAを改造し、強化人間にする方法と、青年にウイルスを投与しDNAを改造する方法がとられていた。特に、外国の施設は青年 を強化人間にする設備を強化している。
 強化人間には、平均的な能力(といっても一般人を遙かにしのぐものだが)を持つ警備部隊・「要塞」、移動能力に優れ攻撃には若干不向きな偵察部隊・「疾 風」、耐久性と戦闘能力に優れた戦闘部隊・「騎雷」の三種類に分けられている。必要とあれば全ての部隊が攻撃、防御の作戦に付けるように訓練されている し、どの部隊も一般の人間とは比べものにならないほど能力が高かった。
 砂登季の能力は、疾風の移動能力、騎雷の耐久性と戦闘能力を大きく上回っていた。こんな人物を見て、何も思わない研究者がいるだろうか?
「おい! あれは何だ?」
 一人の研究者が、液晶画面の一点を指す。そこには銃弾とは若干形の違う金属物質があるように見えた。
「うーん・・・。銃弾の形にしては、明らかに殺傷能力が少ないだろうし・・・。服に引っかかっているのかな?」
 既に開いているCTスキャンの扉の奥へ進み、砂登季を乗せた診察台を引っ張ってきた。そして、彼の脇当たりの服を調べていると、その物体が見つかった。 それはちょうど、Yシャツに首元に着いている小さなボタンほどの大きさで、形もそっくりであった。
「これ、発信器じゃないか?」
 言ったが早いか、鳴ったのが早いのか、研究所に警告のサイレンが鳴り出した。これは、不審な電波が内部から発せられたのをキャッチすると鳴る仕組みのも のである。もう、これではっきりした。研究者が大慌てで実験用のハンマーを持ち出し、そのボタン状の発信器をたたき割った。
「こいつ、スパイか?」

「・・・、電波が途絶えた。発見されたのかな?」
 軍事施設のモニターを見ていたフロディーテがつぶやいた。
「日本の基地はそこか。じゃぁ、奴らと連絡を取って・・・。」
 他の軍人を連れて、フロディーテは部屋から出ていった。

「・・・。なるほど。警備を強化しておくから安心してくれ。」
 研究員が読んだ軍人は、彼らを安心させようと努めた。彼の心の中には日本軍の戦力ならば基地の場所を知られても、守りきれるという確信あった。今までに 基地の場所を知られて攻め込まれたが、守りきったという報告が数件があるのだ。
「分かりました。直ちに調査を続けます。」
 年輩の研究員は声だけ安心したふりをして、すぐに砂登季が寝ている机の近くへ行った。そこでは何人もの研究員が砂登季のDNAを見ている。
「それでは失礼します。」
 軍人はマイク向かいそう言って立ち去った。無菌室に入るために、殺菌をする時間がもったいないし、研究室から司令塔へは有線でつながっている。
「どうだね?」
 さきほどまで軍人と会話をしていた研究員が、他の仲間に聞いている。
「困ったことに普通のDNA配列をしております。これから治癒能力のDNAを調べてみるところです。」
「うーん。本土に送って、もっと細かく研究した方がいいかもしれぬな。もう一本、サンプルを取っておいてくれ。」
 てっきり革命的な発見をしているかと思っていた年輩の研究員は肩すかしを食らった顔をして、ため息をついた。他の研究員たちは砂登季のDNA解析に夢中 になってしまい全く気にしていなかった。
 年輩の研究員は、今日の夕方に日本へ送る荷物の整理をするために、自分の机へ歩いていった。

 綺麗にならされた砂地の上に一直線の石が敷かれている。周りには数本の木々が植えられているが、熱帯の植物のためかどうもしっくり来ない。そして、石が 敷かれている先には一見の庵のような建物があった。
 その中で、二人の年輩の男性が座っていた。一人は神官で、もう一人は僧侶のようである。
「癒薙命殿、あの侵入者の動きを封じていただきありがとうございます。」
「いやいや。見つけ次第、捕獲せよという連絡があってからすぐ、見つけてしまいましたからなぁ。」
 癒薙命は軽く笑っていた。
「しかし、阿臥命の霊力を借りなければならなかったとは。相当の霊力の持ち主ですな。この私では全く歯が立たなかったでしょう。」
「ふふふふふ。仁海殿、冗談はよしなされ。」
 仁海と呼ばれた僧侶も釣られて笑い出した。
「ところで、あの時使った術はいかなるもので?」
 笑いながら仁海が聞いた。
「あれはただの霊力ですよ。名前などありません。封じるために必死に祈った結果です。」
「ほぉ・・・。さすが癒薙命殿。貴方の霊力に不可能はありませんな。」
「それは貴方も同じでしょう。ところで・・・。」
 癒薙命は後ろを振り返った。
「お主は先ほど寺院に侵入してきましたね。どうして一般人がこれほどの霊力を持ち、かつこんな東南アジアの一角にいるのですかな?」
 普通の人間には見えないだろう。しかし二人にははっきりと砂登季の姿を見た。
「お主が噂の・・・。確かに素晴らしい霊力ですな。」
 二人とも砂登季に対して特に危険は感じていなかった。今、僧侶と神官の高位の人物たちが必死で砂登季の動きを封じているために、砂登季が霊力を使用して 危害を加えることは不可能だという確信があったのだ。それにもし何かあれば、二人の霊力で動きを封じられるという自信もあった。
「一体、貴方は私に何をしたのですか?」
 今度は砂登季が聞いてきた。
「ただ、動きを封じただけですよ。」
「ところで、私は今一体どんな状況なのですか?」
 砂登季の意外な質問に、癒薙命と仁海は絶句した。
「どうやら生まれつき霊力を持っているために、勉強をしていない様子ですね・・・。」
 しばしの沈黙の後、仁海が口を開いた。彼のした説明はこんな感じである。
 霊力とは、その人間が持っている精神力のようなもので、筋肉と同じで鍛えれば鍛えるだけ増大するものである。そして、霊力が高ければ高いほど多くのこと が可能になり、また糸縛術などの効果も高くなる。
 さらに霊力を鍛えることにより、神や仏の力を借りてより強大な霊力を扱うこともできるという。
 他にも、空を飛んだり、空間を曲げたり、相手の動きを封じたり、自分の過去や未来を見ることができるという。さらに霊力を鍛えたものは、過去・未来を自 由に移動し、様々な人間の未来を見ることができるらしい。しかし、このような霊力者は過去の文献で存在が記されているが、現代にはいないらしい。
 ちなみに、砂登季は現在霊体という状態であり、霊力と魂で形作られている。自分の体から魂を取り出し、それを霊力で包み自由に動き回るというものであ る。一般の人間には見えないが、ちゃんと存在しており、己の霊力を使うことで相手を攻撃することができるという。そして本人の霊力が尽きると、自然と消滅 し魂は肉体に戻り霊力が回復するまでは霊体としての活動はできなくなる。
「なるほど・・・。」
 砂登季は納得した。納得したというよりも、他の意見が無いために納得せざるを得なかっただけである。
「全く霊力の知識がないのに、これほどの鍛えられているとは。お主、以前何をしていた?」
 今度は逆に、癒薙命が聞いてきた。砂登季は一瞬戸惑ったが、彼の質問に答えた。ビル群ですれ違った若者を殺し、警官に追われたこと。そして、風塵部隊を 全滅させたこと。その後、墓場で若者たちを目撃し、警察に追われて多くの警察と軍隊を殺したこと。その後、ここにいて他の国の人間に拷問されて逃走中にこ こへ来たこと。最後に、霊体となって様子を見ていた時に、強い力を感じここへ来たことを話した。
「ふぅむ・・・。なるほど。」
 長い長い説明の後に癒薙命がつぶやいた。彼は砂登季の答えを頭の中で反芻しているようだった。隣の仁海も同じような表情で考え事をしている。
「お主は未来から過去へさかのぼったようだな。その魂と肉体とを・・・。」
「うむ。お主の話からして、現代の話ではない。それはきっと仁海殿の考えのとおり未来であろうな・・・。」
 うめきながらも考え続けている二人の様子を砂登季はじっと見ていた。二人の顔には迫力がないが、砂登季にはもの凄い力が体内に秘められているのが見えて いた。
「我々にも魂だけならば時間を超えることが可能だが・・・肉体までは無理ですな。」
「えぇ。素晴らしい霊力だ。是非、我々の寺院へ入門し、他の人間を導いてもらいたいものです。」
「しかし。軍の研究施設に運ばれるとは気の毒に。我らの夢は叶いませぬな・・・。」
 砂登季は疑問に思った。
「ところで、なぜ私は霊体のままなのでしょうか? いくら肉体へ戻っても動くことができません・・・。」
 二人はまだ説明していなかったのを恥じている仕草をした。
「いや、これは失礼。霊体の説明の時に話しておくべきでしたな。」
「実は我々は軍の一員なのですよ。貴方の肉体は軍隊の医学研究施設に運ばれて、検査を受けているようです。」
 ここに来て、二人は砂登季を尊敬の意を含めて貴方と呼ぶようになっていた。
 現在、DNAを採取しその配列を研究しており、有用なものと判断すれば軍は砂登季の肉体の一部だけを保管し、彼を殺すであろう。日本人とはいえ、軍の人 間以外はいない外国で発見した人物である。犯罪者か、日本から脱獄したものか理由はどうあれ軍は間違いなく殺さなければならない。それに、癒薙命の説明に は無かったが、発信器が見つかったためにスパイと見なされ殺すことが軍部で決定していた。
 そして現在、寺院の僧侶と神官が彼らの霊力で砂登季の動きと霊力を封じるために祈っている。その祈りは検査が終了し、砂登季を殺すまで行われるだろう。
 もし砂登季が寺院人間の霊力を破り、ここから自由に動き回れるようになれば、軍隊と寺院人間が総力を挙げて彼を殺すだろう。そして、癒薙命と仁海も必ず それに加わるであろう。
 そのように癒薙命は説明した。そして、その説明に砂登季は絶句した。
 努力すれば寺院の人間の霊力をうち破れそうだと砂登季は思っていた。しかし、目の前にいるにこやかな老人たちが自分を殺すために向かってくるとは信じた くなかった。そして砂登季よりも明らかに霊力が高いように思え、対抗できる自信がなかった。
 余談だがDNA改造による強化人間以外に、霊力により様々な呪術を繰り出す霊力者たちも軍隊に組み込まれていた。霊力者たちは第一次世界大戦当時から極 秘で軍隊として活躍しており、その実績は素晴らしいものがあったという。
「しかし・・・私はここで死ななければならないのですか?」
 自分のおかれた現状を取りあえず理解した砂登季は二人に聞いた。
「・・・仕方あるまい。我らとて軍に逆らうことは許さませんからな。霊力を使えば可能かもしれませぬが、霊力を邪なことに使うことはできません。」
 仁海が悔しそうに話す。隣で黙っていた癒薙命も同じ顔をしている。
「惜しい。本当に惜しいと我々は思っております。貴方がなぜ過去へさかのぼっているのかも気になります。それに、貴方にこの寺院の者を導いてもらいた い。」
 二人の表情から、彼らの思いが痛いほど伝わっている。砂登季はそれを見て何を言ってえばいいのか考え込んでしまった。
 霊力者でなければ分からないのだが、部屋の中で三人が考え込んでしまっている。そんな状況が数分間続いた後、砂登季が口を開いた。
「私のDNA解析とやらが終了し次第、私は時間を越えてここから消えるというのはどうでしょうか?」
「・・・。無理ですよ。貴方が殺されるまでは寺院の人間が祈り続けます。」
「どうしても逃げようと思うのならば、逃げてもかまいません。しかし、我々が命がけで貴方の行動を阻止します。」
 仁海の言葉に、癒薙命と砂登季は唖然とした。
「仁海殿・・・。それは確かにそうですが・・・。」
「それが運命ならば私は受け入れます。ですが軍の指示に従い、日本国の発展を目指せという天皇の命令には従いますがね。」
「そうですな。確かに貴方の力で我々を振りきったのならば、それは仕方ないとしか言えませんからな。」
 癒薙命も仁海の考えに賛成した。
「ところで貴方の名前を聞いていませんでしたな・・・。」
 癒薙命が恥ずかしそうに聞く。
「そういえば、そうですな。しかし、我々も名乗っておりませんよ。私がここの妙求寺竜身峰分寺住職、仁海です。」
 さらに恥ずかしそうに癒薙命が続ける。
「私が天坂大社分社の辿官、癒薙命です。」
 砂登季は二人の自己紹介に対して丁寧に頭を下げた。
「私は砂登季といいます。」
 その声に、仁海と癒薙命は頭を下げた。
「さて、砂登季殿。貴方の運命は貴方が切り開くものです。貴方が欲するように進んでみてもよいと思いますよ。」
 仁海が言う。そしてそれに癒薙命が続いた。
「貴方ぐらいの歳ならば、私も動けないまま殺されると知れば、意地でも逃げだそうとしていますよ。」
「ありがとうございます。少し、考えさせてください。」
 そう言った瞬間、砂登季の姿は消えていた。
「行ってしまいましたな。」
「仁海殿。我々ももう歳だ。砂登季のように若くて素晴らしい霊力の持ち主と戦って命を落としても悔いはあるまいな?」
「確かに・・・。」
 二人はそれっきり黙ったままである。周囲からは時々、鳥の鳴き声が聞こえるが、他の神官や僧侶の姿はなかった。

「さて、どうしたものか・・・。」
 砂登季は自分の肉体のある場所まで戻ってきたのはいいものの、自分の肉体を動かすことができない。霊力を使うことができないので、霊体の状態でも意味が ない。要するに何もできないのだ。
 取りあえず、周りの様子を見てみると、白衣を着た研究員が一心不乱に何かをしている。これが噂のDNA解析なのだろうかと砂登季は思った。
 砂登季は考えた。肉体なしで、霊体のみで逃走を試みてみるか、肉体に魂を戻した状態で逃走をするか・・・。霊体ならば霊力者以外は見ることができないた めに、逃走はしやすい。しかし、自分の肉体が死んだ状態で、霊体が存在できるという保証はない。
 肉体に魂を戻して状態で逃走すれば、追われる敵の数が増えるが戦力的に霊体に勝っている。それに霊力の意味がいまいち分かっていない砂登季にも、肉体が ある方が安心感を感じるのだ。
 今になって、仁海達に肉体が死んだ状態でも霊体が存在できるのか聞くべきだと後悔した。一体、いつになればDNA解析が終わるのか砂登季には分からな かったが、取りあえず寺院に戻ることにした。
 ふらふらと本人は移動しているつもりだが、霊力者から見れば戦闘機のような早さで移動しているのが分かるだろう。砂登季の霊体はほぼ一瞬で寺院の本堂に 続く石段の上に立っていた。
「確か、彼らは最上段の建物で話していたな・・・。」
 石段をスッと登り切ると、砂登季はすさまじい霊力を感じた。それは本堂から発せられており、本堂からは多くの人間の祈りが聞こえる。
 砂登季は何となく本堂に近づき様子を見ていた。本堂の中には数人神官が座っており、一心不乱に祈っていた。彼らの眉が微かに動いたところからして、砂登 季の霊体に気づいたらしい。しかし、神官達は砂登季を完全に無視し、彼の霊力を封じるためだけに祈り続けている。
「・・・、今までこのような建物は見たことがないな。」
 仁海や癒薙命と同じく自分を攻撃してくる気配がないので、砂登季はのんびりと本堂内部を観察していた。コンクリートで作られた軍事施設とは違い、本堂は 木造建築である。また、明かりがないために天井までははっきりと見えない。
 そして、本堂には一体の仏像がおかれており、その左右には禅を組んだ小さな像がおかれている。砂登季は仏像に近づいて、そこから何かが発せられているこ とに気づいた。それは、神官達の祈りにより発せられ、それは医学研究室のある方向へ向けられているのが分かった。
「ただ木を加工しただけのようだが、もの凄い霊力を発している・・・。」
 まじまじとその仏像を見ているうちに、砂登季は仏像の後ろに木の箱が置かれているのにも気づいた。その箱には戸が付いているが奇妙な文字が書かれた呪符 が貼られている。中身が気になったので、霊力を使って砂登季は開けようとした。しかし、何も起こらなかった。何度挑戦しても全く動かない。
「これが、霊力を封じられていることか・・・?」
 本堂から出て、近くの壁をたたいてみた。今までなら、粉々になって崩れるはずなのだが、ただ腕が壁を突き抜けただけであった。やはりただの霊体であっ て、何もすることができない。
 声のする本堂を恨めしそうに見た後に、砂登季は仁海達がいる建物へと向かっていった。途中で数名の人間に出会ったが、彼らはあらかじめ砂登季について知 らされているらしく攻撃してくることはなかった。だだ、報告どおりのすごい霊力を確認し驚いているだけである。
「失礼します・・・。」
 扉を開けることができないので、声かけたあと、砂登季は扉をすり抜けて内部に入った。
「おや、また来ましたか。」
 癒薙命が一人で座っていた。砂登季は癒薙命の前に座り、口を開いた。
「癒薙命殿、霊体とは肉体が死んでも存在しうるのですか?」
 癒薙命は腕を組んで少し考えた様子である。
「そうですなぁ・・・。死ぬと全員が霊体になるのですよ。」
「えっ?」
 意外な答えに砂登季は驚いた。霊体とは霊力者のみが使えるものではなかったのだろうか? そんな顔をしている砂登季を無視して癒薙命は続ける。
「ただし、死ぬとすぐに天上界と地上界の間に移動してしまいます。その後は天上界に移動して、再び地上に降りてくるまでは地上界に戻ることができませ ん。」
「・・・はぁ。」
「もっと詳しくお話ししましょう・・・。」
 癒薙命は砂登季が相づちを打つ前に説明を続けた。天上界とは死んだ人間が、再び地上に戻るまで生活する世界である。そこに移動すると、過去の記憶は消え てしまいまた新しい生活が始まるのだという。
 また、肉体が死んでも地上界に存在するのは、幽霊や怨霊などと呼ばれる者達であり、彼らもまた過去の記憶は無い。ただ恨みや憎しみという感情だけしか 残っておらず、ある程度時間が経つと、やはり天上界へ移動してしまうのだという。
「ま、肉体が死んでは何もできないと言うことですな。」
 この言葉を初めに言ってもらいたかったと砂登季は思ったが、黙っていた。
「ありがとうございます。それでは失礼します。」
「何をするのか知りませんが、お気を付けて・・・。」
 砂登季は再び医学研究室に戻っていた。
「まだDNA解析は終わっていないようだ。終わる前に何とかしなければ・・・。」
 研究員達は相変わらず解析を続けている。他のことをしている人間も数名いたが、皆、砂登季の霊体には気づいていないようだ。
 自分の肉体を見ているうちに、砂登季は仏像から発せられているものがはっきりと見えてきた。それをじっと見ているうちに、霊力を感じ始めた。それはまる で波のように砂登季に送られ、砂登季の体全体を包んでいた。
 これさえ絶つことができれば、肉体を動かすことができるかもしれない。そう思った砂登季は、霊体に対しても霊力の波が発せられていることに気づいた。今 までは気づかなかったが、徐々にはっきりと見えてきた。それは、暗闇の様子が徐々にはっきりと見えてくるのに似ていた。
「まずは、霊体に放たれている霊波を断ち切るべきか・・・。」
 普段どおりに砂登季は手刀で断ち切ろうとしたが、やはり無理であった。何度も何度も挑戦したが、何の抵抗もなくすり抜けてしまうだけだ。
 このまま自分は何もできず殺されてしまうのかと、砂登季は霊体に届いている霊波を見つめた。どのくらい見つめていたのだろうか、体を包んでいる霊波に砂 登季は違和感を感じた。今までは空気のように体を包んでいるだけあったが、明らかに異質なものを感じ始めたのだ。仏像から一直線に放たれている霊波に触れ てみると、かなり異質な感じがした。そして、微かに摩擦も感じられるようになった。

 再建中とはいえ、古びて今にも崩れそうな建物。その中の一室は、他の部屋と明らかに違っていた。綺麗な壁紙が貼られており、美しい絵画も飾ってある。設 置されているソファーや机は年季が入っており、しかも細かな彫刻が施されているものである。床には絨毯がしかれ、これにも細かな刺繍が施されている。
「さて、ミスター・レムナイ。本題に移りましょうか。」
 その豪華な部屋の中心におかれた机を挟んで、フロディーテとレムナイは談笑をしていた。二人とも迷彩服で、レムナイの方は特に汚れていた。
「そうですね。私をここに呼んだ理由を聞かせてもらいましょうか。」
 レムナイはそう言って周囲に目配せをした。彼が座っているソファーの後ろには同じように汚れた格好をした男が数名立っている。また、対面しているフロ ディーテの後ろにもアメリカ軍が立っている。しかもお互いに武装しているので、両者共にこの美しい部屋には不似合いである。
「あなた方と協定を結び、我々はここの国を植民地ではなく、属国へとすることを許可しました。そこまではお分かりですよね?」
「あぁ・・・。本当は独立を許してもらいたいのだがな・・・。」
 レムナイはこの植民地の先住民族であった。そして、独立を求め数週間前までアメリカ軍や日本軍と戦闘を繰り広げていたのである。レムナイの拠点から数キ ロ離れれば同じような独立を求めるゲリラはいる。しかし、ゲリラ部隊は独立後、自分達が国の権力を握るために戦っているので、協力していたとしても心の底 では敵と見なしているのだ。
 そのため、ゲリラによる攻撃は統一性が無く、アメリカ軍も日本軍も困り果てていたのだが。
「ふふふ・・・。その気持ちは分かりますが、今ここで我々がいなくなっても混乱するだけでしょう?」
 フロディーテの言葉にレムナイは素直にうなずいた。悔しいかな明らかな事実なのだ。
「それで、です。我々は日本軍の基地の位置を確認しました。」
 レムナイの表情が変わる。
「あなた方の目的は、自分達で外国人を排除することでしたな。どうでしょう? 我々が武器を提供します。日本の基地を攻めてみませんか?」
 フロディーテは身を乗り出した。その顔を見つめながら、レムナイは少し考えた。現在、レムナイの部隊が持っている武器はアメリカ軍のものと比べると相当 貧弱である。武器の提供はありがたいのだが、まだ協定を結んでからあまり時間が経っていないため、本当に信用できるのか疑問である。
 レムナイはアメリカ軍のこの意見の裏に秘められたものを必死で探した。
「基地が分かっているのならば、戦闘は楽になるでしょう。しかし、我々の部隊だけでは不安ですな・・・。」
「うーん。我々はずいぶんあなた方に手を焼いたので、戦力的には十分かと思うのですが・・・。」
 フロディーテは何とも言えない笑顔で答える。
「できればアメリカ軍からも何名か軍人を出していただきたい。協定を結んだ仲です。協力して日本軍を追い出しましょう。」
 レムナイの提案にフロディーテ少し考えた。本当は日本軍をゲリラ部隊に攻撃させ、両者が疲れているところに攻め込む。そして、日本軍とゲリラ部隊を同時 につぶす予定だったのだ。しかし、少し事を急ぎすぎたようである。
「いいでしょう。兵力があるに越したことはありませんからな。」
「ありがとうございます。ところで、いつ・・・?」
「今夜です。ですから貴方の部隊の全員に来てもらったのですよ。」
「おや、これは気づかなかった。」
 レムナイは笑いながら、フロディーテに手を出した。そして、お互いに握手が交わされ、契約が結ばれた。
「それでは早速、武器と部隊の準備をしなければなりませんので私はこれで失礼います。あなた方は、準備をするなり休憩を取るなり、好きなところで好きなよ うにしてかまいませんよ。」
 フロディーテは笑顔で部屋から出ていく。レムナイはそれを笑顔で見送り、自分も外へ出るために後に続いた。
「どうなった?」
 部屋から出るとすぐに、フロディーテに話しかけてくる軍人がいた。
「こちらからも兵を出すことになった。まぁ、気にするな。帰り道でつぶせばいいだけよ。」
 話している姿はレムナイに見えていたが、その声はレムナイに届いてはいなかった。

「ご苦労様です。」
 既に日が暮れて、周囲は闇である。寺院の本堂で、神官達が祈りの交代をしている。
「おお、頑張ってくれ。徐々に霊力が上がっているから、力を入れて祈ってくれ。」
「はい。」
 本堂から三人が出ていき、三人が入った。本堂の中に入ると、神官達は座って祈りを始めた。祈っている人間は汗をかいており、背中がぬれている。どうや ら、相当力を入れて祈っているらしい。
 入ってきた神官達も、動きを封じる相手の霊力を感じて驚いた。そして、周りの人間が汗をかいている理由も理解したのだ。仏像から発せられている霊波は確 実に砂登季の霊体を包んでいるのだが、徐々に効果が薄れている。そして、今にも砂登季の霊力が上回り、砂登季の霊体が霊力を使うのを封じ込められなくなっ てしまいそうだ。
 祈り初めてすぐに神官達は焦りを感じた。

 霊波に違和感を感じ始めてから、砂登季は必死で霊波を断ち切ろうとしていた。徐々に霊波は薄れてきており、もう少しで断ち切ることができそうである。し かし、あと一歩がなかなか出ないのだ。
 研究室からは研究員達が消えて、非常灯の明かりしか見えない。砂登季のDNA解析は今日中に終わらなかったらしく、まだ肉体も無事だ。
「これで・・・どうだ・・・?」
 もう糸のように細くなった霊波を砂登季は思いっきり手刀で断ち切った。実際には音がしなかったが、彼にはプツンと何かが切れるような音がした。そして、 それと同時に体が軽くなったように感ぜられた。
「次は肉体を・・・。」
 肉体に届いている霊波を一撃で断ち切ると砂登季の魂は肉体に戻った。

「・・・馬鹿な!」
 本堂からこんな声が聞こえる。汗だくになって祈っていた神官達はあわてて印を結び、他の人間たちに報告をした。
(今まで動きを封じていた人物が、霊波を断ち切りました。彼を発見し次第、殺すように!!)
 その霊波は一瞬で寺院全体に広がった。急に建物に明かりがともり、にぎやかになる。それに気づいたのか、軍事施設の方も若干騒がしくなったようだ。
「急がなくては!!」
 先ほどは異常な霊波としか感じなかったが、今回は確実に内容を聞き取った砂登季は、目の前の壁を破壊した。壁は跡形もなく砕け散り、砂登季はさらに奥へ と進んでいった。
「研究施設の不審人物が暴れ出した! 要塞、騎雷は戦闘態勢を取れ!」
 異常振動を感知したセンサーが警告音を鳴らす。そして、その音に気づいた監視塔から軍事施設全体に指示が出た。もう日本軍の基地は昼間のようににぎやか になっている。
 砂登季は急いで外に出られる場所を探した。今は知っている場所は廊下であるが、壁には窓がない。できるだけ早く外に出たいのだが、あまり建物内部を破壊 すると、的に見つかる可能性が高くなる。砂登季はとにかく走り続けた。
「待て!」
 一瞬、そんな声がしたかと思うと数名の軍人が飛び込んできた。若干、要塞部隊よりも動きが遅いところから、騎雷であろう。
「はっ!」
 軍人の一人からのびた拳を砂登季は払った。その瞬間、風が起こり騎雷部隊は全員壁に打ち付けられた。壁にはヒビが入っており、全員口から血を吐いてい る。
「逃さぬ!!」
 口から流れる血が一直線に砂登季へ続いていく。普通の人間ならば即死の攻撃だったのだが、DNA改造による耐久力で何とか持ちこたえているようだ。
 敵の数も多く、焦りを感じるべきなのであろうが、砂登季は別のものを感じていた。本人も妙な気分なのだろうが、自分達を取り囲んでいる空気の存在を急に 意識するようになったのだ。
「私を殺そうとするのならば、容赦はせぬ!」
 この、まるで誓いにも似た言葉を発した瞬間、砂登季は空間を動かしたような気がした。今度は何もせずとも、風が立ち騎雷部隊は再び壁に体を打ち付けた。
 今回は彼らの耐久力でもどうにもならなかったらしい。全員、頭蓋が割れ壁に脳がこびりついている。そして、鼻からも脳を垂らしながら、彼らは支えを失っ た人形のようにその場に崩れ落ちた。もう、ピクリとも動こうとしない。
 その無惨な光景を見た後、騎雷部隊を打ち付けた壁に窓があるのを確認した。彼は再び壁を砕き、外へ飛び出した。
 その瞬間、サーチライトが砂登季を照らした。ひときわ高い建物から光がのびており、その建物に数名の人間がいる。目で見てはまぶしすぎて確認ができない のだろうが、砂登季は気配だけでそれを感じた。そして、自分の周りにも数名の軍人がいることも分かった。
「くどい!」
 その声に応じて、雲行きが怪しくなってきた。暗雲がたれ込め、月を隠す。そして、次には滝のような雨が振り出し、激しい稲妻が鳴り響いた。稲妻の一本が 軍事施設に落ちたらしい。建物の一部が赤くなり、遠くで大声が聞こえる。
(砂登季殿、貴方に話がある。私と会った場所に来るがいい。)
 雨が強すぎてサーチライトも役に立たないし、雷の音で声がかき消されてしまう。そんな中、癒薙命の霊波が砂登季に届いた。
 砂登季は風のように寺院の中に入り、癒薙命の待つ建物へと向かった。

 寺院は警備体制を敷いており、何人もの僧侶や神官が監視をしていた。しかし、砂登季の足が速すぎて術をかける暇すらなかった。
「来たか・・・。」
 所々、水たまりができている庭に仁海と癒薙命が立っていた。
「砂登季殿、貴方ならこうすると思っていました。しかし、我々は天皇の命に従う義務があります。」
「私と戦うという事ですか?」
「そのとおりだ。」
 三人は苦い表情をして身構えた。そして緊張状態の中、一番始めに声を上げたのは仁海であった。
「そこの僧侶! 我々に手を出すな! 我らの戦いを見守れ!!」
 その瞬間、砂登季達の周りに霊力による壁ができた。もはや、外から入ることも、中から出ることもできなくなった。
「仁海様! 我々も戦わせてください!」
 壁の前で僧侶が大声で叫ぶ。
「ならぬ! いくぞ! 砂登季殿!」
 その声を出した瞬間、強力な霊波が砂登季に向かって放たれた。
「うぬ!」
 砂登季も対抗すべく霊波を放ち、受け止める。霊波は砂登季の方が若干上回っているらしい。徐々に仁海が押されている。
 一方、癒薙命は祈りを続けている。祈りの間中ずっと下を向いていた彼が、砂登季を見つめた瞬間、地面から多くの人間が現れた。その人間たちは無表情で、 ゆっくりと砂登季へ向かってくる。
「癒薙命・・・禁術を!!」
 苦しそうな声で仁海が言う。癒薙命は無言のまま、砂登季に対して霊波を放った。
 一気に受け止める霊波が増したために砂登季は後ろに吹き飛ばされた。霊力による壁に体を打ち付けて、意識が遠のきかけたがすぐに立ち上がり、迫り来る無 表情な人間たちに攻撃を開始した。
 彼らはただ砂登季の動きを止めるためにつかみかかってくる。動きが素早くないので、攻撃は簡単なのだが、いくら攻撃してもすぐに立ち上がりまた襲ってく る。そして、こんな彼らに気を取られている間に、仁海から放たれた霊力の糸が砂登季にからみついてきたのだ。
 糸に足を取られ、砂登季は倒れた。彼の体の上に次々と無表情な人間たちが折り重なってくる。
 既に数十人の人間が彼の上に乗っている。あまりの重さで全く動くことができない。苦しさをこらえて周囲を見ると、寺院の人間たちが霊力の壁の前に立ち必 死で祈っている。もしかしたら、彼らの霊力も上乗せされて、余計に重いのかもしれない。
「砂登季殿! 覚悟!」
 癒薙命の声と共に、砂登季にかかる圧力が一気に強くなる。
「・・・、ここまでなのか?」
 砂登季は霊体となり外に出た。そして、癒薙命と仁海をにらんだ。すると、魂の抜けた砂登季の肉体がぴくぴくと動き始めた。皮膚が脈打っているのだ。その 奇妙な脈打ちは徐々に激しくなっている。
 次の瞬間、砂登季の体から今まで打ち込まれた銃弾が一斉に飛び出した。その銃弾は、彼の肉体に折り重なった人間たちを粉々に砕き、霊力の壁を突き抜け た。そして、壁の周りで祈っている霊力者達の体を貫いていった。
 銃弾は次々と近くにいる人間を殺し、最後はどこかへ飛んでいってしまい、砂登季の視界から消えた。
「砂登季殿・・・。何という技を・・・。」
 数カ所の銃弾に体を貫かれ、癒薙命も仁海も血を流している。
「しかし、貴方の体はもはや動かすことはできぬ。」
 その言葉どおり、砂登季の肉体はただの肉塊へ変わっている。
 二人は印を結び、より強力な霊波を放ってきた。砂登季も必死になってそれを受け止めた。もはや、以前の親しげに話した記憶などは消えている。
 霊力の衝突は、大地を揺らし、霊力の壁を破壊した。その瞬間、仁海の心に焦りが生まれたのだ。急激に弱まった二人の霊波は、砂登季の霊波によって押し切 らてしまった。
 そして、砂登季が発する霊波は徐々に広がり、触れるものを全て破壊していった。

 フッと砂登季の体が軽くなった。そして、ゆっくりと空へ向かって登っていった。
「砂登季殿、待ってくだされ。」
 下を見ると、癒薙命と仁海も中に浮いている。
「・・・これは?」
「我々は死んだようですな。まぁ、あれほどの戦いです。仕方ありません。」
 二人は笑っていた。
「悔いは無いのですか?」
 笑っている二人に砂登季は質問した。
「いえ、もうこの歳です。悔いはありませんよ。おや、下から軍隊の方々も・・・。」
 仁海の言ったとおり、下から次々と霊体が登ってくる。彼らは、癒薙命たちとは違い、微笑んではいなかったが、戦いの時のような険しい表情ではなかった。
 徐々に視界が暗くなり、砂登季達の上昇は止まったようだ。
「ほぉ、ここが地上界と天上界の中間ですか・・・。」
 癒薙命が上と下を交互に見ている。下には地球の大気が見えているが、周囲に星は輝いていない。また、上に光り輝く球状の物体が見えている。
「意外とさっぱりしていますな・・・。私はてっきり地獄に近いものかと・・・。」
 仁海が続ける。
 その時、上にある光から一人の人物が飛んできた。その人物は、きらめく軌道を作りながら徐々にこちらへ向かってくる。
「あれは?」
 初めに気づいたのは砂登季である。その声により二人も、その人物を見つめる。どうやら男性らしい。髪は長く、ほおに不思議な文様が描かれている。また、 首飾りや腕輪などを身につけており、服も少し古風である。しかし、体中から霊力があふれておりただの人間ではなさそうだ。
「おや、地上界からの人か・・・。再び戻るまで天上界で骨を休めるとよい。」
 三人の前でぴたっと止まったその男はそう言った。
「貴方は一体誰なのですか?」
 仁海が聞く。
「私の名は、津時砂天である。地上界の人間にとっては初めてだろう、神と会うのは・・・。」
 そう言って、その人物は三人を見ている。ふと、その視線が砂登季の前で止まった。
「お主・・・まさか?」
 その声は砂登季に届かなかった。彼は、光のように一瞬にして癒薙命たちから遠ざかってしまったのだ。
「信じられぬ! 人間が時をさかのぼるとは!」
 津時砂天は驚愕の声を上げる。しかし、彼は砂登季の消えた先を見つめてから地上界へ行ってしまった。
「待ってくだされ、津時砂天。砂登季殿はどこへ行ったのですか?」
 津時砂天は立ち止まって答えた。
「過去だ。それ以上は私も分からない。私は時を司る神だが、あれほどの早さで移動されては追いつけぬ。」
 彼はため息をついてから続けた。
「私は勤めがあるので地上界へ行く。お主達は過去のことを忘れ、天上界での生活に慣れることだ。」
 そう言って津時砂天は風のように地上界へと行ってしまった。それと同時に、癒薙命と仁海はまた上昇を開始した。上昇するにつれて、彼らの頭から過去の記 憶がなくなっていく。
 下からは、砂登季の霊波によって命を落とした日本人達が次々と登って来きている。

 後数時間で日が昇るという時に、アメリカ軍と現地のゲリラ部隊は、日本軍の基地の周辺へと辿り着いた。突然の大雨や、霧歩河の橋が壊れておりいたりと、 何かと時間がかかったが、ほぼ予定どおりの到着であった。
 日本軍基地の人間は、砂登季の霊波により全員魂を抜かれてしまっていた。雷で火の手があがったのが徐々に広がり、ほぼ基地全体を取り囲む状況である。寺 院の方は、砂登季の霊力をもろに受けたために、敷地内のほぼ全ての建物が崩れてしまっている。
「焦げた臭いがするな・・・。」
 後二百メートルというところで数名が異常に気づいた。毒ガスの心配があるが、彼らは慎重に進んでいった。日本軍の強化人間の存在を皆が知っているため に、常に周囲に注意を配る必要があり、どの顔も緊張している。
 レムナイは先ほどから細かい指示を無線でしている。現地の言葉らしく、同行するアメリカ軍のほとんどが理解できなかった。
「あまり距離を開けるな。何かあったら、注意しろ・・・みたいなことを言っている。」
 何となく理解できるアメリカ人が、レムナイの言葉を仲間に教えている。
 近づいて行くにつれて、日本軍の基地の全貌が見えてきた。しかし、それはコンクリートの建物ではなく、炎に包まれた建物であった。そして、地面に至る所 に軍人が倒れている。特に外傷はないようだが全く動こうとしない。あまりに意外な光景に一同は唖然として立ったままだ。
「馬鹿な・・・。どうして日本の基地が?」
 アメリカ軍からはこんな声が聞こえる。その炎に照らされた驚く顔を横で見ながら、レムナイは相変わらず指示を伝え続けている。
「日本軍が全滅しているとは・・・。驚きですな。」
 慣れない英語でレムナイはアメリカ軍の司令官に話しかける。
「えぇ。しかし、良かったではないですか。被害が無く、最大の敵を倒すことができるとは。」
 先ほどまでずっと緊張状態であったためか、司令官の表情にいつもの厳しさがない。緊張の糸が切れてしまい、悔しいようなうれしいような変な表情になって いる。
「では、その次に危険なところを攻撃しましょう!」
 そう言ったレムナイは司令官に銃を向けて発砲した。てっきり、喜びの表現のために空中に発砲するだけだと思っていた司令官は、無抵抗のままこめかみを打 ち抜かれている。額に開いた穴は、周囲の闇よりも暗く、そこから吹き出る血が弧を描いた。
「こちらレムナイ! 日本軍が奇襲をしてきました。それにより司令官が倒れ、軍も混乱状態です! 援軍を!!」
 レムナイはアメリカ軍へこう指示を与えた。司令官を撃ち抜いた彼の銃声が全ての合図だったらしい。現地のゲリラ部隊が一斉にアメリカ人に対して攻撃して きたのだ。基地が燃える光により視界は十分である。それに、服装が明らかに違うので仲間を攻撃する心配もない。
 あらかじめアメリカ軍を攻撃する準備ができていたゲリラ部隊に対し、協力して日本軍を倒すことだけを考えていたアメリカ軍は大混乱に陥った。初めに司令 官が殺されてしまった時点で、アメリカ軍はバラバラの行動を取り始めた。
 ひたすら逃げまどうもの。訳も分からず周囲に発砲するもの。日本軍の奇襲だという声や、攻撃を中止しろと言う英語が飛び交う。その声に紛れてゲリラ軍 は、確実にそして素早くアメリカ軍を殺していった。ひたすら逃げまどう人間など、羊などと同じである。
「お前達が、日本軍を殺した後に何をするかは知っていたのだ!」
「我らの国から出ていけ!!」
 そこら中からゲリラ軍の怒りの声が発せられる。彼らの銃弾は確実にアメリカ軍に届いている。時間を追うとごとにゲリラ軍の標的は徐々に減っていった。
 十数分後、ゲリラ軍に同行したアメリカ軍は全滅した。また、ゲリラ部隊の方はほとんど犠牲者が出ていなかった。
 仲間達を集め、レムナイは自分が持っている無線手をかけた。
「ノーサイ、アメリカ軍が動き出したらそっちの出番だ。早く奴らを一掃してしまおうぜ!」
 帰ってくるゲリラ軍を殺すために、歩霧河付近に待機させた部隊は大慌てで日本軍の基地へ向かっているだろう。レムナイ達は彼らが通るはずの道を避け、大 きく迂回しながらアメリカ軍の基地を目指した。
 一方、基地で待機していた部隊はあわてて準備を整え歩霧河へ向かっていた。ところが途中の道に地雷が仕掛けられており、最前列の車が炎上し、周囲から無 数の銃弾が飛んできた。突然の奇襲のためになかなか体勢が整えられないまま、アメリカ軍は徐々にその兵力を削られていく。
 そして、アメリカ軍の基地にもゲリラ軍が侵攻し始めていた。
「出撃した部隊から奇襲を受けたとの報告があります!!」
「基地周辺から次々とゲリラ軍が侵攻してきます。もう防ぎ切れません!!」
 周りからの報告を受けて、フロディーテは頭を抱えている。
「日本軍とゲリラ兵を一度につぶそうという私の計画は間違っていたのか・・・。」
 彼は悔やんだ。ゲリラに日本軍の基地を攻撃させることまでは成功したが、彼らを全滅させるどころか自分達が全滅しそうなのだ。
 どうやらレムナイは他のゲリラ部隊とも協定を結んでいたらしい。やはり同種との協定の方が信用がおけるのだろう。アメリカ軍は、ゲリラ部隊を利用される どころか逆に利用されてしまったのだ。
 銃声が鳴り終わった頃、アメリカ軍の基地は、日本基地同様、炎に包まれていた。


「・・・と、言うことは。日本の軍隊が大統領を?」
 現場調査の中、官房長官に一人の警察官が話しかけた。彼の報告を受け、官房長官は驚きの声を上げた。
 砂登季の侵入により、血の海となった終戦記念の会場は未だに血で黒ずんだままだ。
「えぇ、大統領の体に打ち込まれた銃弾は全て日本軍が使用するものでした。」
「大統領には他の傷がないのか?」
「軽い打撲はありましたが、致命傷ではありません。死因は間違いなく・・・。」
 官房長官は周りを見た。幸い他の人間には聞こえていないようだ。
「仕方ない。国家機密だ。誰にも漏らすな・・・。」
 その時、一つの日本の秘め事が生まれたようである。


 断っておきますが、この作品の舞台は一応日本です。しかし、歴史の背景は 全く違うものですので混乱しないでくださいね。
 今回の話で、全体の半分かと思います。はぁ・・・長いですね。



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