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SSの幼生


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支配者・代表者
 争いや悲しみというものがいっさい無い平和な星にちょっとした異変が起きた。宇宙から巨大な宇宙船の集団が着陸し、完全武装をした兵士達に囲まれながら、紳士的な服装をした異星人が現れたのだ。
「この星の代表者、もしくはこの地域の代表者はいらっしゃいますか?」
 どうやら、この紳士的な服装をした異星人が使者らしい。彼は、兵士達に武器をしまうように指示し、周囲を見渡した。そして、もう一度「代表者はいらっしゃいますか?」と声をかけた。
 何度か代表者を呼んでいるうちに、集まってきた人々の中から、老人が歩み寄ってきた。
「この星の代表者にお会いするのですか、異星の方。」
「そうです。直接話がしたいのです。」
「どうぞ、こちらへ。さぞかし歓迎してくださることでしょう。」
 老人はくるりと背中を向けて、歩き始めた。それを見た、使者は慌てて老人を引き留める。
「歩いていくおつもりですか? 我々の用意した”車”があるので、それに乗って案内してください。」
「それならば、お言葉に甘えて。」
 地上から一メートルほど浮いた状態ですーっと”車”が近寄ってきた。”車”と言っても、大きさは電車一両分ほどの大きさがある。
 老人は、異星人達に案内されて車の中に消えた。それを見ていた群衆は、”車”が走り出すと後を追わず、まるで何事もなかったかのようにどこかへ散らばっていってしまった。

「ここです。」
 大きな建物の前に止まるように老人は指示した。”車”が止まったのとほぼ同時に、建物から一人の女性が出くる。
「ごくろうさまです。それでは、異星の方、奥へどうぞ。」
 ”車”から出てきた老人にねぎらいの言葉を書けた後、女性は異星人に対して会釈をし、彼らを建物の中へ導いた。
 彼女は、建物の奥へゆっくりと歩いていく。使者だけではなく、完全武装をした兵士達が入ってきても全く気にする気配がない。
「あなた方が会いたがっているこの星の代表者も、あなた方がいらっしゃったのを歓迎しています。それではどうぞ、この部屋へお入り下さい。」
 大きな扉の前に来たとき、女性はそう言って立ち止まった。扉を開けなかったのを不審に感じた兵士達が、扉に様々な機材を置いて奥の安全を確かめたが、そのようなことをされても女性は嫌な顔一つしていない。
「では・・・。」
 女性の平然とした態度に疑問を感じつつも、使者は扉を開けた。
 部屋の奥は比較的広く、一人の男性が座っていた。
「ようこそいらっしゃいました。異星の方。お待ちしておりましたよ。」
 使者は軽く会釈をして、部屋に設置されている椅子に座った。兵士達は、使者の後ろに控え、いつどんな攻撃をされていいように気を配っている。
「いきなりこのような話をするのは恐縮なのですが、善は急げという言葉もあります。単刀直入に申し上げますが、我が星と貿易をいたしませんか?」
 使者からの急な要望に、代表者はとまどうことなく答えた。
「貿易・・・ですか? むしろ、この星を植民地として使っても構いませんよ。」
 これは、この星特有の冗談なのかと思い異星人達は返答に困った。
「ご冗談を。我々は凶暴で支配欲しかない低俗な星の住人ではありません。対等な立場で貿易がしたいのです。」
 星の代表者は、使者の言葉に軽くうなずいた。
「あなた方のその平等の精神はとても素晴らしいと私は思います。しかしですね、私はこの星をあなたがたにお譲りしたいのです。」
 代表者が嘘を言っている様子はないし、嘘を感知する装置も異常を示していないので、異星人はますます返答に困ってしまった。
「・・・、この星の代表の方。そのような心境になるとは、何かあったのですか?」
「・・・、これをご覧下さい。」
 いきなり壁がスライドし、巨大なコンピューターの一部が顔を出した。兵士達が戦闘態勢に入ったが、何も起きないのですぐ武器をしまった。
「この装置は攻撃用ではないので心配しないでください。すこし、この星の歴史をお話ししましょう。
 以前、この星では犯罪をなくすために、人間を監視し、悪事を働こうとした人間にそれを押しとどめる作用のある電波を発する装置を開発しました。」
「それで・・・?」
「この装置もおろかだったんですよ。しょせん、人間の作った俗物だったのしょうか。変な欲を持ってしい、人間を電波で支配してしまったんですよ。」
 異星人達は顔を見合わせた。どうやら、この星の住人の態度が妙なのは、この装置が原因のようである。
「あなた方を電波で操作することはできないので、心配なさらないでください。
 ・・・それでです、その装置は電波で人を操り、色々なことをさせました。お互いを戦わせたり、様々なモノを開発して宇宙へ進出したりしました。しかし、いつかは飽きるのですよ。何しろ、自分の手で努力し勝ち得たものではないし、人間の能力にも限界はあります。
 人間はこれ以上、自分を楽しませることができない分かると、その装置は人間を支配するのをやめたのです。」
「それで、その装置は今、星の代表として君臨しているのですね? そして、あなたは人間の形をした機械なのですね?」
 異星人の問いかけに、代表者は答えなかった。
「大部分は正解です。しかし、この人間は話に出てきた愚かな装置・・・、つまり私が電波で操作しているだけです。まぁ、他の人間も無用な混乱を起こさぬように先ほどは操作していましたが。」
 異星人が状況を飲み込むのを待ってから、代表者は口を開いた。
「あなた達にとって、私はこの星の代表です。しかし、人間の支配に飽きて以来、私はこの星で代表者や支配者らしいことはしておりません。ただこの星が平和 であり、人間の培ってきた技術がむやみに失われたり、人間の手で自然環境が急激に破壊されたり、彼らがむやみに増えないように電波で操作しただけです。」
 代表者の内容を聞いた使者は、おそるおそる聞いた。
「あなたの行動を批判するつもりで言うのではないのですが、今あなたの話した行動は支配と言うのではありませんか?」
 使者の声に、装置に操られている男性は黙っていが、しばらくしてゆっくりと口を開いた。
「いいえ、支配ではなくただの飼育ですよ。」


「抑止力」の修正版・・・というか、あの作品のプロットをもうちょっといじったものです。内容が「抑止力」とかなり離れてしまったので、タイトルは「支配 者・代表者」に変更しました。本当は、支配者だけでもよかったのですが、既にそのタイトルは使っていましたので、代表者も追加しておきました。
 もし、人間が将来コンピュータに支配されるようになっても、彼らから「ペット」として扱われていたら悲しいですね。
 「抑止力」は「独り言」へ移動しました。



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