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SSの幼生


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決意
 強烈な一撃がザノンを襲い、彼は倒れた。
「巫女よ・・・あの日の決意に向かい進む俺を邪魔するのか・・・。」
 クレールはキッとザノンをにらみ答えた。
「戦乱も終わり、人々は平和のありがたさを実感しています。この素晴らしい時代を、 昔の混乱の時代に戻そうとする人間の野望は防がなければなりません!」
 ザノンは苦しそうに口を開いた。
「・・・野望だと・・・?混乱の時代に陥れるだと・・・、馬鹿な・・・。」
「何を今更!サフィーユを使い神を復活させたのはそのためでしょう!」
 クレールはやや困惑しながら答えた。
 ザノンの口元に笑みがこぼれたが、よほど苦しいらしくしばらく答えなかった。
「俺は詩人だ。人々に安らぎを与える詩人だ・・・。あの混沌の時代に、俺は人々に安らぎを 与えるために様々な街で唄を奏でた。みんな、一時の安らぎを得て笑顔だった・・・。」
「・・・?」
 ザノンの一人語りは続く。
「ある時、俺は思ったのだ。なぜ、神はこの時代に人々を導き、平和をお与えにならないの かと・・・。」
「それは、貴方の祈りがたりなかったのでしょう・・・。」
 相手の態度が急に変わり、クレールは困惑しきっていた。
「ふっ、サフィーユに真の祈りを教えたのはこの私なのだが・・・。憶えているか?あの夏の夕 暮れを・・・。」
 夕暮れになり修道院に戻らないサフィーユを、大勢で探した時の事をクレールは思い出し た。あの日、サフィーユは太陽に向かい祈り続けており、その祈りはまるで女神のようだっ たと話題になった。それからだ、サフィーユの能力が急激に上昇したのは・・・。
「・・・まさか?」
 ”詩人のお兄さんに教わったんだ!”。あの晩、クレールの質問に無邪気に答えた瞬間が よみがえった。
「・・・戦乱が終わったが、人々の生活は一向に良くならない。苦しみ続ける人々を救うために 俺は街から街へ転々としていた。・・・そして、その時にこの塔のことを知ったのだ。」
 ザノンは苦痛に顔をゆがめたが、再び口を開いた。
「俺は考えた末、決意した。このような世界を救えぬ神など、神ではない。俺が神になりこの 世界を導くと・・・。」
「ではなぜ、ギリアスを復活させようとするの?」
「ギリアスは戦の神だ。封印されているとはいえ、結局は戦の神。いずれ復活し世の中を混沌 の世界へと変えてしまうだろう・・・。俺は神の力を得、その力を使い、ギリアスを倒そうとして いた。」
「・・・、どうして・・・神の力を得ただけで、神に勝てると思っているの?」
 戦乱の根元を絶ちたいというザノン主張は分かる。しかし、神の力を得ても所詮は人間なのだ。
「エルメラーダと戦う時、お前は負けた時のことを考えていたか?」
「・・・!!」
「俺はいかなる手段を使っても奴を倒すつもりだった。だが、もうその夢は叶えられない・・・。 巫女よ、いやクレールよ・・・俺の願いを引き継いでくれないか・・・?」
 ザノンの問いかけにクレールは答えなかった。
 彼女は黙ったまま魔法陣の方へ進んでいった。ザノンは微かに笑みを浮かべたが、彼の瞳の中に 光はなかった。


 らんちゃんの「悪人を立てようシリーズPart1」という事で(シリーズ化は未定です)、Brandish4 のザノンを取り上げてみました。サフィーユのエピソードは勝手に考えました。
 取り合えず、悪人にも悪人なりの理由があるということで。



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