存在感
「ふぅ・・・。」
大統領は部屋から出た。
今日は、ある常任理事国の外交官が国連議会での意見の調整のために話に来たのだ。
しかも困ったことに話は平行線をたどり、気持ちのいい終わり方ではなかった。
「パパーッ!」
会議を終えた建物を出ると、車が入り口に横付けされていた。そして、その車の前に
は、彼の息子と、秘書、そして運転手が立っていた。
「おぉ、坊や。」
彼は自分の息子を抱き上げた。
「パパ、お仕事忙しいの?」
少し、疲れたような彼の顔を見て、息子が心配そうに聞く。彼は、ニコッと笑っただ
けだった。
「パパ、昨日ね、学校の友達にクイズを教わったんだ!」
「ほぉ、どんなものだい?」
「ある物のありがたさが、分かるのは、その物が無くなった時だよね?」
大統領の息子は棒読みのような口調で言う。
「ぼうやは哲学者のようだ。・・・それで?」
「じゃぁ、あると常にありがたさが分かるものは何だ?」
息子はニコニコして聞く。彼は手をあごに当てて考えた。
「ぼうや、私の負けだ!答えを教えてくれ!」
少々、オーバーな仕草で息子を見る。
「答えは、”せんりゃくかく”だって。」
「なるほど!それは思いつかなかった!」
彼はその瞬間、胸を射られた様な感覚に襲われた。
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もし息子に「でも、”せんりゃくかく”って何?」と聞かれたら、彼はどう答えるので
しょうか?
身を守るために持ち、しかも危険な状況でも使わない護身用兵器・・・とでも答えて、
「ぼうやがもっと大きくなれば分かるよ。」といって逃げるのでしょうかね。
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