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SSの幼生


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掃除機
 増え続けるゴミの処分のために国は頭を悩ませていた。なんとしてでも、増え続けるゴミを処分しなければならない。しかも、合法的で他の国に迷惑になったり、地球の環境を悪化させない方法でだ。これはまさに国の一大事ということで、政府は巨大な研究施設を建て、全国の様々な分野の科学者を集めた。そして、長い研究の末、画期的な処分方法が完成したのだ。
 その方法とは、他の次元に捨てる事であった。利点としてはとにかく捨てるだけで手間がかからないということ、それから次元を変えて捨て続ければ永遠に” ゴミ捨て場”がなくなることがないということだ。精密な検査を何度も繰り返し、自分たちの次元以外での生命体の存在確率が約六京分の一という天文学的な結果も出ており、政府は喜んでその方法を許可した。しかし、この素晴らしい処分方法にも唯一の条件があった。それは、3次元ならば4次元以上、5次元ならば6次元以上の次元へゴミを捨てることが条件であった。これはある物理学の科学者の研究から、「高次元の物体を低次元に持ち込むと、低次元のバランスが壊れる」ということが証明されたためである。例えるのならば、ビルで下の階が崩れると、上の階も崩れてしまうようなものだろうか。
 この条件をふまえた上で、国は掃除機型の多次元ゴミ放出装置が開発し、一般家庭への普及につとめた。幸い比較的安価で、掃除機に吸わせるだけでゴミが処分できるという手軽さにより、あっという間に普及した。国内での普及率がある程度高くなると、国は海外へ輸出し始め、この掃除機は世界中に広まっていった。

 それから数ヶ月後、今まで見たことがない放射性反応を示す物質が世界中で大量に発見された。決して生物に害を及ぼすようなエネルギーを出しているわけではないのだが、突然の出現により世界中の科学者が研究を開始した。もちろん、「掃除機型多次元ゴミ放出装置」の開発に取り組んだ国の科学者も、掃除機の研究をし終わり、暇だったので研究に当たった。
 何もしていないのに物質が曲がり、光が屈折する。人の姿が位置によって全く変わってしまう。曲面の壁なのに触れてみると平面の壁・・・。努力する研究者たちをあざ笑うかのように、奇妙な現象が次々と起こり始めた。一部の科学者からは、掃除機と放射性物質と奇妙な現象とは関連性があるのではないかという説が持ち上がり、それが徐々に支持を得ていった。決定的な証拠があるわけではないのだが、他に関連のありそうなものがないのだから仕方がない。

「俺たちは下の階を見事に改築したが、天井に数カ所穴を開けたことで、上の階の床をもろくしてしまったようだ。穴をあけたら、完璧にそれをふさぐことなど今の人間には不可能な技術だろうし、開けることによるビルへのダメージも考えるべきだった。」
「それで、私にどうしろと?」
「お前、一応友達だろう。昔のよしみで、ビル爆破の爆弾設置方法を指南して欲しいんだよ。物理学者だから、そいうの詳しいだろ?」
 研究中の科学者のもとへ、知り合いが電話をかかってきた。
「とはいえ、研究は忙しいし・・・。」
「お礼はするよ。是非頼む。今までビル爆破を担当していたやつが、病気でしばらく病院から出られなくてどうしようもないんだよ!!」
 受話器から祈るような声が聞こえてくるので、科学者はため息をついた。
「・・・で、ビルの天井というか・・・床に穴を開けたために、ビル自体がもろくなったから爆破するんだな?」
「そうだ。穴を開けたから・・・。」
 科学者は穴を開けている光景をぼんやりと想像していた。大きなドリルを使って天井に友人が穴を開けている光景だ。
「・・・。」
「おい? どうした? 気分が悪いのか?」
 返事をしない科学者を心配して、受話器から声が聞こえる。
 科学者は決して気分が悪くなったのではなかった。彼は、自分の頭の中で展開する光景を凝視していたのだ。天井の穴が貫通した瞬間、上の階と下の階の空気がゆっくりと混じっていく。
 それは、まさに低次元から高次元への物質のやりとり・・・


 なんとなく修正してみましたが、どうでしょうか?



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